資金難を訴え、国立科学博物館が8月7日から始めたクラウドファンディングは、受付開始から9時間半で目標額の1億円をクリアし、開始3日目で5億円を超える盛り上がりを見せている。だが「目先のカネを集めただけでいいのか」との疑問が残る。
というのも、国立科学博物館の「顔」である上野の科学博物館ができたのは、明治10年(1877年)。関東大震災で標本と建物が消失後、現在の日本館である旧本館は昭和6年(1911年)に竣工する。その後、2015年までに新しい展示棟が建設された。ところが、だ。あくまで筆者の主観だが、最近リニューアルされたばかりなのに、展示が暗くて古くてつまらない。
クラファンに資金提供するほどのコアなファンや、科学や生物学、古生物学が大好きなマニアックな子供なら、カビ臭く古臭い展示や、剥製や骨格標本に興味を持つだろうが、研究者が「ホレ、貴重な研究資料だ」と動物の標本を押し付けたところで、所詮は生物の死体と骨。今どきの「動く図鑑」や「CG動画」で動物や昆虫、古生物が生き生きと動く姿を見慣れている子供は気味悪がり、退屈で泣き出してしまう。泣き出した子供や疲れた子供を休ませる休憩場所も少ない。
かくして科学博物館に子供を連れて行っても一度で懲りてしまい、リピートすることはない。上野動物園、大阪の海遊館、福井の恐竜博物館で「生体展示」「鮮やかな模型展示」を見た方が、子供が喜ぶからだ。
そんな科学博物館の惨状に「大阪万博反対」の左翼メディアや研究者はさっそく「万博に金を使うくらいなら、科学博物館に税金を投じろ」と言い始めている。
8月14日の「ワイドスクランブル」(テレビ朝日系)に出演した池上彰氏も「国が税金で維持するべき」「国の認識が低い」と言及したが、TBSやテレビ朝日があえて報じない「都合の悪い真実」がある。国立科学博物館は「65歳以上は無料」(特別展は除く)なのだ。
総務省が今年4月に発表した資料によれば、今年の10月時点で、日本の65歳人口は全人口の29%に達する。日本人のおよそ3分の1から入場料を徴収せず、タダで見せるボランティア事業をしていれば、経営困難にもなるだろう。
65歳以上からの入場料徴収、有料動画サイト、グッズ販売、欧米の博物館のように外国人観光客が見学のために来日するような魅力ある展示、500万点に及ぶ収蔵物の整理や売却…科学博物館の経営努力の余地はいくらでもある。
池上氏といえば、昔はNHKで子供向け教育番組を担当していたが、最近はその番組を見ていた現役世代が払っている「税金でなんとかしろ」と言うばかりになってしまった。「高齢者の負担増」だけは、口が裂けても言わない。小中学生の味方はすっかり、高齢者の味方に変わってしまった。
(那須優子)