内閣改造・自民党役員人事で、岸田文雄総理は「モテキング」こと茂木敏充氏の幹事長留任、「ドリル優子」の異名を持つ小渕優子元経産相を選挙対策委員長に起用することを決めた。小渕氏の後ろ盾である森喜朗元総理は幹事長への起用を望んでいたが、茂木氏の留任を優先した。「政治とカネ」の問題がくすぶる小渕氏を閣僚に起用すると、野党の追及は必至。党四役とはいえ、ほぼ衆院小選挙区の調整が終わった選対委員長に据えたのだった。
岸田総理は9月11日朝、インドから帰国するまで、人事については茂木氏にいっさい言質を与えていなかった。このため、茂木氏が「なんも言われないということは残留なんだろうな。財務相と言われたら受けないから」とやきもきする場面もあった。
これには伏線がある。茂木氏は8月26日の講演で「本格的な経済対策を秋にはまとめ、補正予算を実行していきたい」と発言。これが岸田総理の逆鱗に触れた。総理と相談もないままに、茂木氏が補正予算の編成に踏み込んだからだ。
岸田総理は8月29日の党役員会が終わると茂木氏を呼び、短時間ながら会った。
「補正予算発言にクギを刺したとみられます。役員会後の記者会見で補正予算について聞かれた茂木氏は『総理の発言通り』とそっけなく答えました。内心、忸怩たる思いはありながらも幹事長留任を優先し、発言を軌道修正した形です」(官邸関係者)
茂木氏はジレンマを抱えている。来年9月の自民党総裁選への出馬に意欲を見せているが、ここで幹事長を外れ、同じ派閥の小渕氏が後任になれば、党や茂木派内での求心力を一気に失うことになるからだ。
岸田総理にしても、自身の後釜を狙う茂木氏を幹事長に留任させるのは、決して望ましいことではない。とはいえ、岸田・麻生・茂木の主流派体制の枠組みを崩したくはない。小渕氏は華はあるものの、政治的な力量は茂木氏にはるかに劣る。加えて、2014年に事務所が政治資金規正法違反で東京地検特捜部から家宅捜索を受けた際、ハードディスクがドリルで「意図的に」破壊され、証拠隠滅が図られていたことから「ドリル優子」のあだ名をつけられた。ドリル嬢は国民に、いまだ納得のいく説明をしていない。いや、できないのだろう。
岸田総理はインドから帰国するまで留任を伝えないという「嫌がらせ」をしたものの、茂木氏を続投させることにした。結果、四役のうち同じ派閥から2人という異例の布陣となったのである。
(喜多長夫/政治ジャーナリスト)