カラダの一部に手を当て、エイッとばかりに腫瘍などをつかみ取る。そうした「心霊手術」には多くの人が、胡散臭いイメージを思い浮かべるはずだ。だが、ブラジルには20年弱の間に、200万人に治療を施し、費用を一切受け取らなかったことで、伝説の心霊手術師と語り継がれる人物がいる。それが一昨年、日本でも上映された映画「奇蹟の人 ホセ・アリゴー」の主人公、ホセ・アリゴーだ。
アリゴーは1918年、ブラジルのミナスジェライス州にある小さな町、コンゴーニャスで生まれ、小学校を3年で落第。以降は地元で雑貨店を営んでいたが、ある日、不思議な夢を見た。
そこに現れたドイツ人医師がアリゴーに「お前の使命は、この国で病気で苦しむ貧しい人々を治療することだ」と促したというのだ。むろんアリゴーは、医学的な教育など全く受けていない。
「ところが何を思ったか、コンゴーニャスに診療所を構えて心霊手術を始めると、口コミが評判を呼び、ブラジル全土から連日、数百人の患者が彼のもとを訪れるようになったといわれます」(現地事情を知るジャーナリスト)
とはいえブラジルでも、医師の資格を持たない者が医療行為を行うのは違法だ。アリゴーは1957年、ブラジル医師会によりニセ医者として告発されて実刑判決を受け、刑務所へ収容されることになってしまう。
「ところがこの判決に対し、患者をはじめ、その家族らが政府に猛抗議を行った。うち数百人がアリゴー奪還のため刑務所襲撃を企てるなど、アリゴー逮捕が大きな社会問題に発展しました。政府は1965年、ついに彼を釈放することになったのです」(前出・ジャーナリスト)
アリゴーの患者には第22代ブラジル大統領ジュセリーノ・クビチェックの娘もいたとされ、彼女が「アリゴーの心霊手術で完治した」と証言したことで、ブラジルでは「心霊手術」への信頼は絶対的になった時期もあった。
だがそうなれば、エセ心霊術師が現れるのも自然の摂理だ。さらに1971年1月に交通事故でアリゴーが死去すると、心霊手術師や心霊治療家を騙った輩がはびこるようになり、金銭トラブルや性的虐待事件が頻発。ブラジルではそれが現在も継続しているという。
「2018年には心霊治療家を名乗る76歳の男が335人もの女性に対し、性的虐待に及んだ容疑で逮捕されました。男は死んだ医師らの魂を招喚して霊的手術や治療を施していたと説明していますが、目的が性的虐待にあることは明らか。男が運営する治療院のサイトには、国内外から毎週5000件以上の問い合わせがあったのだとか。西洋医学に限界がある中、まだまだ心霊治療が注目されていることの表れだと考えて間違いないでしょうね」(前出・ジャーナリスト)
ブラジルには今なお怪しげな心霊手術師が数多く存在し、被害者はあとを絶たない。
(ジョン・ドゥ)