中米ドミニカ共和国のサント・ドミンゴ自治大学と、エジプトの考古学者からなる発掘チームは、10年にわたり、エジプトのアレクサンドリア近郊にあるタップ・オシリス・マグナ神殿で発掘調査を行ってきた。最大の目的はかの絶世の美女、クレオパトラ7世(紀元前69年~紀元前30年)の墓を見つけることにほかならない。
ところが、そんな発掘チームが岩を切って作られた墓から、16体のミイラを発見してしまう。そのうちの1体が「黄金の舌」を持っていたと発表し、考古学者が色めき立ったのは2021年2月だった。考古学研究家が解説する。
「発見されたミイラは約2000年前のもので、いずれも保存状態はよくないものの、指輪やネックレスなどの豪華な装飾品を身に付けていたり、頭飾りのある笑顔のデスマスクを着用したものも。それなりの身分にあったようです。その中で唯一、1体だけは頭蓋骨や骨格の大部分がほぼ無傷で、保存状態も極めて良好だった。そして『黄金の舌』は、遺体の防腐処理中に故人の舌を切り取った後、金で作られた舌に置き換えられたとみられます。おそらくは故人が死後の世界で、冥界の神であるオシリスと会話できるようにするため、そのような措置が施されたのではないか、と発掘チームは分析しています」
オシリスとは、死者の魂を裁く神のこと。とはいえ、当時のミイラ処理人たちがなぜ、この人物からだけ舌を抜き「黄金の舌」を持たせたのか、あるいはなぜ金にしたのか。いずれも不明で、その人物が生存中に発話障害を持っていた可能性がある、と指摘する考古学者もいるが…。
「マグナ神殿は紀元前221年から紀元前205年に古代エジプトを統治したファラオ、プトレマイオス4世が建造を命じたとされ、実際に本人のものとみられる、頭部が欠損したファラオ像が発掘されています。発掘から10年の歳月を経てもなお、クレオパトラは見つかっていませんが、『黄金の舌』を持つミイラの出現で、研究チームの士気は高まりました。近い将来、クレオパトラが発見されることへの期待が膨らみます」(前出・考古学研究家)
2000年の時を経て発見された「黄金の舌」は、現代人に何を語りかけているのだろうか。
(ジョン・ドゥ)