AI将棋は急速な進化を遂げている。挑戦者の伊藤匠七段がカド番で迎えた第36期竜王戦7番勝負の第4局は、初日の11月10日午前から目が離せない展開となった。前回の長考続きの対局とは対照的に、目まぐるしく駒が動く。
対局とともに注目されるのが、藤井聡太八冠の立ち寄り先だ。対局が開かれている北海道小樽市は、北海道で初めて石炭輸送のための鉄道が敷かれた「北の鉄道のまち」。特に小樽市総合博物館には50両もの鉄道車両が保存展示されており、アメリカから取り寄せた明治42(1909)年に機関車製造会社H.K.ポーター社で製造されたテンダー式蒸気機関車のアイアンホース号は、製造から100年経った今も現役で展示運行されている(現在は運行休止中)。
実はこの小樽市総合博物館の鉄道展示が充実したのも、藤井八冠の「テツ友」であり、年の離れた親友タモリの「暴言」がきっかけだった。
それは2015年11月のNHK「ブラタモリ 小樽編」でのこと。番組冒頭で「小樽に来たことがない」というタモリに対し、案内役で同博物館の石川直章館長は、昭和59年7月発行の「’84小樽博 爆笑、タモリ登場! どっと5万人」という見出しのついた地元メディアの記事パネルを紹介。
石川館長によると、タモリは5万人を前に「博覧会のくせに、な~んにもないところ」と言って小樽博の特設ステージを降りたという。
タモリは「全然覚えていない。それぐらい印象にないんだよ、この町は」「記念すべき回になりますね。バツ悪いよ、記憶から消えてるんだもんな」と苦笑したが、このタモリの暴言がきっかけで、小樽市は廃墟と化していた明治時代の建築物を、観光の目玉として再生。1980年代には悪臭漂うゴミが浮いていた倉庫外のドブ川は、40年の時空を超えて小樽運河へと生まれ変わった。11月9日の竜王戦第4局の事前取材で、藤井八冠は雪虫の舞う幻想的な運河に佇んでいた。
タモリが暴言を吐かなければ、藤井八冠が小樽を訪れることなどなかっただろう。新千歳空港から会場までは残念ながら、車での移動となった藤井八冠。対局後は博物館でテツ分を補給できるだろうか。
(那須優子)