2023年7月からテレビ版第2期が放送中の人気アニメ「呪術廻戦」が、クライマックスを迎えている。原作は「週刊少年ジャンプ」で連載中の同名コミックで、シリーズ累計8000万部を超える。芥見下々氏作の「人々が吐き出す呪いが現代社会を襲う」設定の、ダークファンタジーだ。
人間の恐怖心や憎悪が生んだ「呪霊」や、史実にも描かれている古代日本の異形の鬼神「両面宿儺」が、現実社会でも群衆がトラックをひっくり返すなどの犯罪と大混乱が起きた2018年10月31日、ハロウィン当日の渋谷を襲撃。
11月16日の放映回では、まるでウルトラマンかゴジラの特撮映画を見ているかのように渋谷の街が焼き尽くされ、18日と19日に大規模改修工事が行われたJR渋谷駅も、「改修」どころか山手線の車両ごと消滅した。大惨事の舞台となる渋谷の街はマークシティやヒカリエ、セルリアンタワー、丸井はもちろん、東京メトロ渋谷駅の公衆トイレ、「しぶちか」地下街、地元の渋谷区立「神南小学校」をモデルにした小学校まで、ディテールが再現されている。ところがリアル社会では、そこにあるはずの2つの「渋谷のランドマーク」が登場しない。
NHKと、安倍晋三元総理、自民党・麻生太郎副総裁、ユニクロなどを展開するファーストリテイリングの柳井正会長、芸能人らが豪邸を構える「セレブ住宅街」がそれだ。アニメ版では原作にないオリジナル映像も盛り込まれているが、アニメ制作会社の「MAPPA」はつい先日まで、NHK総合でアニメ「進撃の巨人」を手がけていたし、「少年ジャンプ」で連載中の「ONE PIECE」は、昨年のNHK紅白歌合戦でコラボした。さすがに「大人の事情」でNHKを破壊するわけにはいかなかったのか。同じように、東急百貨店本店(現在は営業終了)より先の高級住宅街は描かれていない。
「劇場版 呪術廻戦0」を配給した東宝には「苦い教訓」がある。昭和29年公開の初代「ゴジラ」が、銀座4丁目交差点にある銀座のランドマーク、和光の時計塔を「破壊」したことに、当時の和光社長が激怒。その後、東宝は2年間、時計塔と和光社屋の撮影を禁じられた。さすがにアニメでも、総理経験者が暮らす高級住宅街を焼くのはシャレにならなかったようだ。元渋谷区議によれば、
「リアル社会での渋谷ハロウィン自粛も高級住宅街で騒ぐヤカラがいた上、渋谷駅前のスクランブル交差点や国道246号線、井の頭通りなど、政治家や実業家が都心から自宅に戻るルート上で大混乱が起きたせいではないか、と言われています。上級国民でなくても大迷惑ですよ。来年以降も、ハロウィンで渋谷に来るのはやめてほしい」
アニメの舞台を回る「聖地巡礼」の際も、くれぐれも地元住民に配慮してほしい。
(那須優子)