今年は映画業界にとって、記憶に残る年になりそうだ。邦画アニメーションの歴史的なメガヒットが2本、登場したからである。
1年の興行を振り返る時、映画業界は前年の11月末、及び12月以降から、その年の11月半ばまでの公開作品を対象とする(例外もある)。
今年はその期間に「劇場版 呪術廻戦0」(興収138億円)と「ONE PIECE FILM RED」(139億4000万円、9月12日時点)のメガヒットが生まれた(公開順)。
これがいかに凄いことか。同じ年に130億円を超える作品が2本登場したのは、邦画、洋画合わせて、今年が初めてだ。それも「ONE PIECE」は、まだまだ数字を伸ばそうとしている。
さらに付け加えれば、「トップガン マーヴェリック」がすでに123億円を超え(9月11日時点)、130億円突破が見えてきた。そこをクリアできれば、今年はなんと、邦画、洋画合わせて130億円を超える作品が3本登場することになる。可能性は十分ある。
新たなメガヒットの時代が到来したと言えるかもしれない。特に邦画アニメに関しては、そのような言い方ができると思う。
というのは、ここ3年に満たない短い期間で、歴代トップ興収の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」(404億3000万円、20年)を筆頭に、先の2本が続いたからだ。今後への影響のほどは計り知れない。
ただ、洋画の場合は「マーヴェリック」がちょっと例外的なメガヒットなので、これを今後の洋画全般にあてはめるには、少し無理がある。
邦画アニメに絞れば、これらのメガヒットは、人気コミック原作を土台にした劇場版である点が、最も重要だ。もともとファンの裾野が巨大であり、そこを起点にしているため、映画の市場性も圧倒的である。
先の3本は、コロナ禍以降に公開されたことも大きい。テレワークなどで自宅にいる機会、いわゆる「巣ごもり」状態を余儀なくされる人たちが増えた。原作、配信などの映像に触れる機会が増し、人気コミックの知名度、認知度が一段と上昇したのだ。
それに伴い、劇場版への関心も膨れ上がったのだろう。中身の充実感も、相当なものであった。
歴代の邦画アニメーションの興収(100億円以上)を見ると、90年代から2010年代までと、20年以降では、明らかな違いがあるのがわかる。
前者では、宮崎駿監督や新海誠監督の作品が多く並んだのに対し、20年代からは先の3本と、庵野秀明監督の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(21年)が上位に入り、変化の兆しが出てきたことだ。
もっとも、宮崎監督は現在、新作の製作中であり、新海監督は20年以降では最初の作品となる「すずめの戸締り」が年内公開予定だ(11月11日)。
こうなると、邦画アニメにおける新たなメガヒットの時代とは、ひとつの傾向、特定の監督で括ることは難しくなってくるのかもしれない。どこから、何が飛び出すのか。皆目、見当もつかない。
いまだに「躍る大捜査線」の2本と「南極物語」しか100億円を超えていない邦画実写作品との差は、どんどん開くのではないか。
(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2022年で31回目を迎えた。