古井戸から這い上がってくる幽霊といえば、ホラー映画「リング」「らせん」の貞子を思い浮かべる人はいるだろう。そんな古井戸にまつわる、日本を代表する怪談が、江戸時代の番町(現在の東京都千代田区)にあった旗本屋敷を舞台にした「番町皿屋敷」である。
屋敷の主は、火付盗賊改方で旗本の青山主膳。ある日のこと、この屋敷に使える下女のお菊は、主膳が家宝として大事にする揃え皿のうち、1枚を誤って割ってしまう。お菊は主膳から厳しい折檻を受けて「10枚のうち1枚を割ったのだから」と指を一本切り落とされた後、縄で縛られたまま屋敷にある古井戸に身を投げて、命を絶ってしまう。
ところがしばらく経つと、お菊が身を投げた井戸の底から悲しそうな声で「1枚、2枚…」と皿を数える声が聞こえてきて…というものだ。
日本の怪談に詳しい歴史家が語る。
「お菊は『水仕(みずし)』という台所での水仕事を担当する下女として、この屋敷で働いていたのですが、もともとは青山が死刑にした盗賊・向坂甚内の娘だったとも伝えられます。指を切り落とされて監禁されたお菊は、いずれ青山に殺されるという恐怖に耐えきれず、自ら井戸に身を投げたと言われています」
むろん、全てが事実であるか否かは不明だが、東京都杉並区の永福にある栖岸院にはお菊の墓があり、花を手向ける人があとを絶たないそうだ。
実は今、そんな「番長皿屋敷」さながらの騒動が、メキシコのコアウイラ州にあるサルティーヨという町で勃発。「サルティーヨの幽霊」として、メキシコ中で話題になっているのだ。中南米事情を知る国際ジャーナリストが解説する。
「メキシコのメディア『ソカロ』の報道によれば、9月23日深夜、男性がサルティーヨの町を歩いていたところ、町はずれにある深さ6メートルの井戸から女性の声が聞こえたというんです。男性が井戸に近づき、『中に誰かいるんですか。あなたの名前は?』と尋ねると、井戸の底から女性の声で『ファニータ』という返答があったといいます」
慌てた男性は警察に通報し、午前3時30分、警察官が現場に到着した。警察官が「名前は?」と呼びかけると、やはり「ファニータ」という女性の声が聞こえてくるものの、懐中電灯で井戸の底を照らしても、人影は確認できない。ただ、声を掛ければ「ファニータ」と応答があるため、警察が消防署に緊急救助を要請。
「消防署員が井戸にハシゴを掛け、下に降りて探したのですが、そこに女性の姿はありませんでした。その井戸は地下で数カ所の井戸と繋がっているため、消防署員は他の井戸も丹念に確認したのですが、結局は誰も見つけることができなかったのだと…」(前出・国際ジャーナリスト)
この不思議な現象に対し、「殺された女性の幽霊だ」との声が続出。メキシコでは現在も、この話題で持ちきりだという。
(ジョン・ドゥ)