ここ数年、ギャングによる暴力犯罪と治安悪化に歯止めがかからない、中米メキシコ。ギャング同士の抗争事件も相次ぎ、一般市民が巻き添えになる事件が多発している。中でも今年1年(10月までの統計)でなんと702件もの殺人事件が発生しているのが、メキシコ南部に位置し、大西洋に面する人口65万人ほどのコリマ州だ。州都コリマは2022年、世界で最も暴力的な都市にランキングされている。
このコリマにあるエル・チャナルの教会に安置された聖母マリア像に、「驚くべき現象」が起きた。目から涙がこぼれた、として地元メディアが報道。州内外から、涙を流すマリア像を一目見たいと、多くの巡礼者が殺到する騒ぎになったのである。
現地メディア「イマージェン・テレビジョン」などの報道によれば、この教会で9月、地元の子供たちを集めたカテキズム(教理問答)が行われた。その最中、たまたま9歳の男児が、目の前にあるマリア像の目から涙がこぼれ落ち始めたことに気付き、周囲に知らせたことで大騒ぎに。その後も同様の現象が幾度も現れ、撮影された動画がSNSにアップされた。これが「涙を流すマリア像」として一躍、有名になったという。
秋田県秋田市添川にあるカトリック修道院「聖体奉仕会」の「奇跡のマリア像」をはじめ、世界には「涙を流す」とされるマリア像が、いくつか存在する。中でも有名なのが、イタリア・チビタベッキアにある、高さ43センチ程のマリア像だ。なにしろ「血の涙」を流すのだから。
チビタベッキアは、ローマの北65キロに位置する、小さな港町。ここにある教会のマリア像が血の涙を流したと、巡礼者たちの間で話題になり、イタリアの有力紙コリエレ・デラ・セラで報道された。それが10年ほど前のことだ。宗教ジャーナリストが解説する。
「あまりにも頻繁に目撃談があることから、チビタベッキア司教区が歴史家や神学者、医師らに調査を依頼した。ところが多角的な面からいくら検証を行っても、その原因が証明できなかったのです。そこで調査団はメディアに対し、全員一致の見解として、血の涙が現在の科学では説明できない超常現象である、と発表。イタリア最大の超常現象として知られることになりました」
この件で、バチカン本部やチビタベッキア司教区は、正式なコメントはしなかったようだが、巡礼者たちの目には「それは神の御業に違いない」と映ったことは間違いなかろう。
今回、メキシコの教会で起こった現象についても、地元住民の多くは「治安の悪化を嘆いて、涙を流しているのではないか」としているが、マリア像が比較的新しいことから、製作時に使われた多孔質素材が水を含むことで発生した自然現象ではないのか、との指摘もあるという。
この怪奇現象を機に、世界で最も暴力的な都市は「更生」へと向かうのか…。
(ジョン・ドゥ)