昔、年末年始は必ず超大作映画が話題になったものだけど、最近はパッとしないよね。私らの世代は、まさに邦画全盛期を知っている。当時の俳優を「銀幕のスター」と呼んだもんさ。正月映画といえば、松竹の「寅さん」、東映の「健さん」だった。カッコよかったよなぁー。それだけに、今回のニュースは残念でしかたがない!
【さようなら、健さん】
俳優の高倉健さんが悪性リンパ腫のために11月10日に都内の病院で亡くなった。享年83。東映ニューフェイス2期生として、「網走番外地」や「日本侠客伝」、「昭和残侠伝」など、任侠ピカレスク路線の人気シリーズの主役を張り、東映退社後も「幸福の黄色いハンカチ」、「鉄道員」など、多くのヒット作で知られる。テレビドラマやCMにもあまり出演しない「銀幕のスター」の最期に、各界から惜別の声が上がった。
私の世代だと、健さん以前の長谷川一夫、市川雷蔵、大河内伝次郎、片岡千恵蔵という時代劇スターが演じる股旅モノを観てきて、そこに健さんが現れたという過程を覚えている。昔ながらの任侠映画の美学もありつつ、新しい時代の美意識もあった。映画館から出てくる時、「男たちは肩で風切って歩いていた」と言われるけど、あの頃は本当にそうだったもんね(笑)。私も男だから、やっぱり「唐獅子牡丹」には憧れたもんですよ。
任侠映画後の健さんもカッコよかったよね。「幸福の黄色いハンカチ」もよかった。本当に「自分」って言葉がいちばん似合う俳優さんだったよな。私の場合、一人称で「自分」を使うのは似合わないけど、「鉄道員」のラストには憧れる。私も70歳を超えたことだし、最後は雪の中でパッタリと倒れていく人生もいいなと思うわけ‥‥。そんなにカッコよく死ぬタマじゃないって? 大きなお世話だ!
健さんとは住む世界が違うから、面識と呼べるほどの面識はないんですよ。ただ1度だけ、ずいぶん前に新幹線で大阪から東京に戻る時に同じ車両に乗り合わせたことがある。お見かけした程度なんだけど、こっちは緊張しちゃうよ。だけど意外とフランクな方でね。驚いたのは、いつも「うつむいて寡黙」な健さんが、隣の人とずっとしゃべりっぱなしだったこと(笑)。しゃべりだしたら止まらない人で、私も負けちゃうぐらいだった。あの「不器用ですから」というのが、本当は演技なんだと思って、よけいにシビれたけどね。
それで、任侠映画のもう一人の巨頭、菅原文太さんまで、あとを追うように亡くなってしまって、ただただ驚きだよ。年末は、昭和の名優を偲んで、任侠映画を観直そうかな。正月は外を肩で風切って歩いているかもしれないけどね(笑)。
◆プロフィール みのもんた 1979年に文化放送を退社後、フリーアナとなる。以後、数々の番組で司会、キャスターを務める。1週間で最も生番組に出演する司会者のギネス記録保持者でもある。