元日の日本海を襲った「能登半島大地震」を機に、大阪万博中止論が急浮上している。大阪府の吉村洋文知事は1月4日、府庁で記者の囲み取材に応じると、「一部(万博開催反対の)意見が出ている」ことに触れ、次のようにコメントした。
「被災地の復興支援は国を挙げて自治体も協力して、全力で行うのが当然だと思う。それに基づいて法制度、様々な制度が整備されている。自治体も全力を挙げて協力している。万博と復興支援が、二者択一の関係ではない。なんで万博と復興支援が二者択一なのか、よくわからない」
万博開催に改めて意欲を示した形だが、この発言を取り上げたネットニュースのコメント欄には、
「ウクライナ情勢と万博に震災が重なって建築資材が高騰する」
「ただでさえ大工や建設作業員が足りないのに大阪万博に人出を割かれたら被災地の再建が遅れる」
などという「正論」が次々と寄せられている。なにより問題なのは、退路を絶ってまで万博開催を強行する「大義」があるのか、だ。
なにしろ大阪万博の目玉である「空飛ぶクルマ」は、まるで実用化に至っていない。2023年12月23日の本サイト記事で取り上げたように、
「経済産業省は10月、中小企業イノベーション創出推進事業として、大阪・関西万博で運航事業者4社に指定されたSkyDriveに、124億円を助成すると発表した」(全国紙経済部デスク)
ところが税金124億円を投入する空飛ぶクルマは、土砂崩れで陸路が遮断された能登半島の被災地でも運用されていない。防災ヘリの飛行優先で、被災地上空のドローン飛行を禁止しているという事情はあるが、万博開催まであと1年余り。被災地に救援物資も送れない「空飛ぶクルマ」が、はたして万博入場者を乗せることなどできるのか。
空飛ぶクルマ出展企業4社のひとつ、丸紅は提携先の英国ベンチャー企業が重大事故を起こしたため、大阪万博ではデモ飛行にとどめると、すでに表明。同じく出展企業の日本航空では、1月2日に羽田空港で衝突炎上事故が起きたばかり。トヨタとともに米国ベンチャー企業のJoby Aviationに出資している全日空も、年末年始の繁忙期に同事故の影響で欠航、減便を余儀なくされている。
能登半島地震の翌日、航空史上に残る重大事故の不幸が重なり「空飛ぶクルマ」展示が成功するのか、大いに疑問だ。前出の経済部デスクに改めて話を聞くと、
「民間パビリオン出展予定の吉本興行は松本人志の性加害スキャンダル、五輪アンバサダーは旧ジャニーズ事務所タレント、という不確定要素も抱えています。大阪市は医療ヘルスケアをテーマにしたパビリオンを出展しますが、北陸に集中する製薬工場の被害状況を把握できていません。自民党大阪・関西万博推進本部の本部長・二階俊博氏と近畿大学の理事長・世耕弘成氏はともに、自民党裏金事件の渦中にある。どれも何がはじけるかわからず、世界に恥を晒す前に、震災復興を理由に中止した方が府知事のメンツも保てると思いますが…」
そもそも会場の建設工事自体が大幅に遅れている現状、「開幕にはまず間に合わない」との観測が強まっている。前代未聞の事態に襲われた万博を、無理やり開催しようとする理由はどこにあるのか。大多数の納税者は理解できないことだろう。
(那須優子)