誕生日の記念写真、NHK紅白歌合戦を見ながらの大晦日の団らん、ディズニーランド、ハロウィンパーティー…。そんな日常のささやかな幸せがある日突然、呪怨の標的になる。
フジテレビの老舗特番「世にも奇妙な物語」やホラー映画の話ではなく、XやInstagramで日々起きている狂気だ。
落語家の立川志らくは1月15日までに自身の公式Xで、誹謗中傷に法的措置を取る方針を示した。きっかけは志らくが1月13日にアップした写真だった。
昨年のハロウィンシーズン、ディズニーランドで開催中の仮装イベントに、三女と参加したことを報告。顔を隠しつつも、好きなキャラクターに扮した三女と志らくが並んでポーズをとる、微笑ましい光景だ。すると、志らくと三女を侮辱するコメントがみるみる返ってくる。まるで池にエサが投げ込まれた際の、飢えた鯉のようだ。
志らくは「このコメントは許せません。即開示請求します」とし、法的措置を取る決意を示した。嫌がらせコメントの主のプロフィールを見ると、自称自宅警備員や自称介護職、迷惑系YouTuber…。志らくが法的措置に出たとしても慰謝料は取りっぱぐれるであろう、いわゆる失うものが何もない「無敵の人」だ。
標的になるのは有名人ばかりではない。池袋母子殺傷事故で妻と娘を失った松永拓也さんや、元日の能登半島地震の際に熱傷を負って4日後に亡くなった5歳の男の子の母親にも、執拗な誹謗中傷コメントが寄せられている。中には医者を名乗るアカウントから、ここではとても書けないような残酷な言葉が投げつけられている。家も家族も失って憔悴しきった人たちはいつ、衝動的な行動に出るかわからない。そんなこともわからない医者がいるとは…。
そんな想像力や理性、常識と共感性に欠ける、人の形をした「呪い」が、ネット上で次の獲物を探している。
ゾッとするのは「人の形をした呪い」達は〈お前が子供の写真なんて載せるから、こういう目に遭うんだ〉〈報いだ〉と、意味不明の言葉をSNSに書き込んでくる。志らくに宛てた誹謗中傷も同様で、「子供の写真、家族団らん写真をアップしたら呪われる設定」がまさに、ホラー映画さながらなのだ。
Xはフィリピンとニューランドで、新規アカウントに1ドルを課金する制度を試験導入した。「無敵の人」にはクレジットカードの審査が下りないので有効策なのだろうし、海外にも無敵の人やスパムがウヨウヨしているのか。日本もネット利用者とネット社会の質を担保するために、全アカウント課金制を導入するのは、やむをえないのかもしれない。
(那須優子)