1月27日、28日に島根県大田市「国民宿舎さんべ荘」で行われた将棋の第73期ALSOK杯王将戦7番勝負第3局は、藤井聡太王将が苦手とする後手ながら、挑戦者の菅井竜也八段をわずか94手で退けた。これでこの防衛戦は3連勝。王将戦3連覇と大山康晴十五世名人が持つ、タイトル戦19連勝の記録更新まであと1勝とした。
菅井八段は第2局に続き、敗因を自分の悪手にあったと猛省。
「初日の封じ手(45手目、先手7三歩)の少し前によくない選択をした。先手6六角(31手目)とお互いに角を合わせたあたりで、先手5八金左と普通に指すのがいちばんよかったと思います。1日目で苦しくしたのがまずかった」
決して挑戦者が弱かったわけではない。藤井八冠の頭抜けた強さは、心理戦で常に優位に立つことにある。AI将棋の申し子である藤井八冠に正攻法では勝てないと百戦錬磨の相手に思わせる、「威圧感のない威圧」だ。
昨年1年間の対局を通じて、対戦相手はおのずと正攻法を避け、奇をてらったつもりが最善手を見落とし、自滅に追い込まれている。渡辺明九段はYouTubeのインタビューで、藤井八冠の恐ろしさを次のように表現している。
「先に藤井竜王を削り、ミスを誘う戦法でしたが…。藤井竜王の持ち時間が3分となったのに、そこから減らない。次第にこちらが劣勢になり、自分の持ち時間だけがじわじわ減っていく」
今回の王将戦第1局は、藤井八冠の持ち時間が8分なのに対し、挑戦者の持ち時間は80分に。第3局も挑戦者は持ち時間を60分以上残しての投了だった。
どんな奇襲を仕掛けても、藤井八冠は動揺せず59秒で最善手を打ってくる。AIを超える、得体のしれなさ。たっぷり持ち時間があるというのに、精神的に追い詰められていく。
もし自分が挑戦者だったら…と考えると、見た目を裏切る藤井八冠の奥深さには、鳥肌が立つほどゾッとする。
第4局は2月7、8日、東京都立川市の「オーベルジュときと」で行われる。菅井八段には、天国の大山十五世名人と視聴者がさらにゾッとする好勝負を期待したい。
(那須優子)