かつて藤井聡太少年を泣かせた「永遠のライバル」が、「連勝」を止めた。藤井八冠に同学年の伊藤匠七段が挑む将棋の第49期棋王戦コナミグループ杯5番勝負第1局が2月4日、富山県魚津市の「新川文化ホール」で行われ、珍しい「持将棋」が17時35分、129手で成立。第1局の勝敗は引き分けとなった。
聞き慣れない「持将棋」とは、双方の玉が敵陣3段目以内まで入り、どちらも相手の玉を詰む見込みがなくなった場合、対局者同士の合意で無勝負となる。玉を除く大駒(飛車と角)1枚を5点、小駒(金、銀、桂、香、歩)1枚を1点と数え、双方の点数がそれぞれ24点以上ある場合にのみ成立。どちらかが24点に満たなければ、負け扱いとなる。4日の対局は藤井八冠が29点、伊藤七段が25点だった。公式戦では互いに24点を超えていれば、点差による勝敗はつかず引き分けになるルールが適用される。
対局後のインタビューで伊藤七段は「持将棋を目指す展開だった」「こちらの入玉は手数がかかるので神経を使った」と、かなり早い段階から「相打ち」に持ち込むことを狙っていたと明かした。
藤井八冠にとってはプロ棋士になって初めて、棋王戦では1988年の第13期第3局(高橋道雄棋王VS谷川浩司王位)以来36年ぶりの「珍記録」を狙っていたとは、さすがの「藤井AI」にも思い至らなかったようだ。
「途中までは考えたことがある将棋だったが、飛車を押さえられ、自信のない展開になった。早い段階で入玉を含みにした。伊藤七段の手のひらの上に…という将棋になってしまった」
藤井八冠はそう振り返って悔しさをにじませた。
今年の棋王戦は能登半島地震で被災した北信越を回る「北陸ダービー」の一環。第2局は2月24日に日本三大菓子処、石川県金沢市の北陸新聞会館で行われる予定だ。午前中から「持将棋」含みの展開だった第1局と違って、藤井八冠と伊藤七段それぞれが加賀銘菓を堪能できる展開になるだろうか。
(那須優子)