これがヒリヒリするような防衛戦で培った経験の差なのか。初日は互角の戦いに見えた将棋の竜王戦第3局だが、2日目は藤井聡太八冠の攻めに終始した。藤井八冠は終局後、こう振り返っている。
「相掛かりから序盤で一歩を取らせるような形になって、その代わりに何か主張を作れるかどうかという展開だったなぁと思うんですけど。封じ手のあたりは少し自信のない形で戦いになってしまったかなぁと思っていました。その後、今日の昼食休憩明けから急に激しくなって、終盤は分からない局面が多かったかなぁと思っています」
2日目の「勝負メシ」は、北九州市民だけでなく旅慣れた乗り鉄にも人気の地元うどんチェーン店「資さんうどん」の「肉ごぼ天うどん」セット。「太巻き、稲荷」の助六を少なめと注文したのも、前夜「封じ手の△5六歩」が気がかりで、寝つきが悪かったのだろうか。
同手は解説やAIでも妥当と評価されていた。むしろ挑戦者・伊藤匠七段が順当な封じ手に気後れした感があり、次のような反省の弁を述べるのだった。
「△5六歩に対して、最初は▲2三銀成とかで攻め合うつもりだったんですが、ちょっと自信が持てず、本譜を選んだんですけど、悪化させてしまったのかなと思いました」
1日目はAIの勝率が49%と51%。ほぼ互角だったが、2日目は藤井八冠が攻めに転じ、96手で勝利した。
同学年の2人の対決は、地域起こしの起爆剤にもなっている。北九州市の観光情報サイトには、2日間にわたる勝負メシと勝負おやつが早々に紹介され、地元の商店街では何が選ばれるか、固唾を飲んで見守っていた。
伊藤七段が1日目午前のオヤツに選んだのは、北九州の八幡製鉄所にちなんだ、ネジ型のチョコレート。ネジを回して遊ぶこともできる工具型サブレを添えた「ネジメカ&コク旨チーズセット」の「メカサブレセット」は、早くもオークションサイト上で定価3倍以上の値段で転売する「転売ヤー」が登場している。
製造販売元の「ネジチョコラボラトリー」は、以前から転売に関する注意喚起を呼びかけている。10月27日現在、通販サイトで同セットの取り扱いはまだあるので、わざわざ悪質な転売ヤーから買う必要はない。
さらに気が気でないのは竜王戦第5局の舞台、香川県のことひら温泉だろう。竜王戦第3局が始まった10月25日から、開催地1泊2日宿泊プランの申し込みが始まっている。月末には対局前夜祭、対局2日目の大盤解説会の参加者の申し込みも始まる。次の第4局で伊藤七段が巻き返せば、愛知県名物の「ぴよりん」に続き、香川特産の卵をふんだんに使ったスイーツや骨つき肉を全国にアピールできる好機が訪れる。
…と、これはあくまで外野の話。伊藤七段はプレッシャーと雑念を振り払って、藤井八冠に一矢報いる戦術研究に没頭してほしい。
(那須優子)