映画ジャーナリストの大高宏雄氏は「現代や○ざ 人斬り与太」での文太の演技を目の当たりにして衝撃を受けたという。
「暴力団組織に盾つく愚連隊のチンピラ役でしたが、荒れまくるバイオレンスは『仁義なき戦い』以上。文太のものすごい魅力が出ていた。あの作品があったからこそ、実録路線が一気に花開いたと思う。儀礼的というか、高倉健の格式ある極道もいいが、私は菅原文太に魅力を感じますね」
確かに、健さんと文太のヒーロー像はまったく異なる。
「文太さんはヒーローなんだけど、どこか泥臭く人間臭い感じがある。ボクは圧倒的に文太さんが好きです」
と、語るのは精神科医で映画監督でもある和田秀樹氏。これまで3本の映画を撮っている和田氏は、この10月に会食の機会を得て映画出演を打診した。文太は「俳優は引退しているから」とやんわり断ったが、脱原発で話が盛り上がり、福島県知事選の応援に行くことになったという。
「福島は中央政府や東京都から植民地のような扱いを受けている。文太さんは原発問題があるのに、結局、原発を容認しかねない自民党の子分のような候補が当選するのは看過できないというのがあって、応援演説に出かけたんです。実はその時、かなり病状も深刻だったそうなのですが、演説になると、文太さんは『政治家というのは暗殺(されること)を覚悟でやらないといけない』『この地は自由民権の本場』などと、しんみりとした言い回しで聴衆を魅了するんです。人に訴えかける力は最後まで健在だった」(和田氏)
白髪を隠すこともなく、病身でボロボロになりながらも、聴衆の前に現れ、「何とかしましょうよ」と訴え続ける文太。
「俳優の菅原文太さんですと紹介されると、『俳優はやめました。今は農業です』と現れ、『何とかしましょうよ』と訴えかける。一方の健さんはずっと役者でいようとした。健さんに憧れる人はロマンチストなのかもしれない。そこが2人の大きな違いです。健さんはイメージとしては、ハリウッド的なスターという感じ。映画という別世界の中に生きた人だと思いますね」(和田氏)
最後にジャーナリストの田原総一朗氏が言う。
「菅原さんは年を取ってから市民運動に参加されて、この前も特定秘密保護法案の集会で一緒になった。市民運動にもっと頑張っていかれるのかと思ったが残念です。一方の高倉さんは映画俳優に最後までこだわった。まさに正反対の生き方をした2人だったと思います」
偉大な両俳優への、「熱い思い」は尽きない。