極道映画で一世を風靡した2大俳優の急逝の衝撃がいまだ収まらない。高倉健が「耐え忍ぶ美徳」を演じれば、菅原文太は銀幕の中で飢えた狼のように暴れまくった。双方たまらなく魅力的だったが、どこか役柄を彷彿させる私生活の言動も含め、「男の器量」はどちらが上か。まさに2人が演じた「極道」の現役幹部たちが大激論した!
「高倉健(享年83)の演じる、ガマンしてガマンして、でも最後に怒りを爆発させて斬り込むというスタイルは私の憧れでした。あの姿を見て極道になったと言ってもいいくらいです。それに比べて菅原文太(享年81)は、『仁義なき戦い』後に『トラック野郎』で路線を変えるなど柔軟な印象で、同じ極道でも『自分らの仲間』という印象ですね。やはり男の器量という点で憧れるのは健さんですね」
こう話すのは、元暴力団の作家・中野ジロー氏だ。かつて関東の有力組織に所属し、現在はアウトローの世界を取材、執筆している。さらにこう話す。
「私の父は漫画家でしたが、芸能人との交友も幅広く、東映極道映画に出ていた俳優ともつきあいがあった。それもあり、よけいに憧れた面もあります。で、私の周囲にも健さんに憧れて稼業入りした人は何人もいる。ただ、中には多額のカネを作るよう親分に命令されることが重なり、自分が憧れた健さん映画の世界と、現実の極道の世界のギャップに悩んだ末に自殺してしまった人もいます」
高倉の映画には、主に新興組織と古風な伝統を守る組織の戦いが描かれている作品も多い。中野氏は「その両方の要素を備えた組織に長年所属していた」といい、そこで、身につけたものは「筋目」。今でも筋目を大事にするため、文筆業に転身してからも、「筋の通らない仕事はキッパリ断る」という所作を大事にしているという。
実際、現役の極道たちに聞いても、高倉を支持する声は多い。関西の有力組織幹部のA氏が言う。
「健さんは精神的に全て『男』やった。ワシは根っこが民族主義者で、アメリカにベッタリするのが大嫌い。労働者の気持ちがわからんヤツも許せないが、健さんはどちらかといえば思想は右、民族主義だと感じる。しかもワシの価値観と相通じるところがあり、物欲がない。私生活でも禁欲を貫いていたんでしょう。ストイックということは自己愛が強い裏返しでもあるが、そこが大物極道に好かれる一番の理由やないか」
A氏は昭和30年代に極道としての駆け出し時代を過ごしたが、その当時をこう振り返る。
「毎週土曜になると、オールナイト興行といって朝まで映画をやっていた。オレも彼女を連れ、よく見に行った。もちろん、健さん主演の映画だよ。彼女と夜明けのコーヒーを飲みながら、『オレも健さんみたいなカッコいい博打打ちになるんだ』って自分に言い聞かせたものだよ。夢にまで健さんが出てくるくらい、健さんファンだった」
A氏は現在67歳だが、周りは全て健さんファン。文太が好きだという極道は、一人もいなかったそうだ。
「ワシらの世代に健さんファンが多かった背景には、博打全盛ということもある。あの頃は一晩1000万円くらいテラ銭が入り、週に2、3回賭場を開くと、20~30人の若い衆を食わせていけた。健さんもよく博徒を演じていたからね。ところが、70年安保を境に博打の摘発が厳しくなり、極道に『暴力団』というレッテルが貼られ、今や、『絶滅危惧種』とまで言われる始末や。極道から博打を取り上げなければ、泥棒や強盗、オレオレ詐欺に走ることもなかった」
そう言ってA氏は苦笑するのだが‥‥。