漫画家で映画監督でもある杉作J太郎氏と文太との出会いは75年に遡る。杉作氏は愛媛県出身で地元の進学校を中退したばかりだった。
「進学校を退学して社会のレールから完全にハジき飛ばされ、疎外感のど真ん中にいました。ところが、その頃に見た『仁義なき戦い』での菅原文太さんも本線からハジかれて、貧乏くじを引いたのに、全然マイってない。粘り強い牛のように、最底辺から一歩一歩はい上がる力強さがあったんです。そんな菅原さんの姿に自分を重ね合わせることで、生きる希望を見いだすことができたんです」(杉作氏)
主人公が理不尽さと闘う姿に救われたというのだ。
「唯一、ベッドシーンには共感できなかった(笑)。当時、ボクは未経験でしたからね。ボクが好きな高倉健の映画での健さんは、本当にストイックで、彼女もいなければ、女と交渉もしない役が多かった。たとえできそうになっても自分から身を引いて敵地に殴り込む、というパターンでした。世の中、女がいなくてもどうにかなるんだな、というところは健さんに教えてもらいましたね」
高倉健は体制側の「優等生」で、菅原文太はアウトロー。世の中にはそんな見方をしている人が少なくない。が、杉作氏は、それは違うとこう言う。
「健さんが権力側だということは決してない。2人とも弱者のヒーローであり続けた。2人に違いがあるとすれば、本能に忠実か否かだと思います。文太さんは『ヤル』けど、健さんは『ヤラない』ということ。2人とも孤独なんだけど、健さんは孤独を受け入れるが、文太さんは孤独の中でもがいている。刑務所の中で受刑者たちと一緒に笑顔を見せるのが健さんで、文太さんは何くそと思っている。そして出所後、健さんは一杯のラーメン、バターを塗ったトーストで満足しているのに、文太さんは肉を食べて女を抱く」
杉作氏は10年前、文太と漫画誌のインタビューで会ったことがある。
「喜び勇んで出かけ『いやあ、楽しかった、おもしろかった、お疲れさまでした』と言ったら、文太さんが急に真顔になって『キミは少しヘラヘラしすぎだな』と言ったんです。もうショックで顔面蒼白。『すみませんでした』というのがやっとでした。そしたら、一拍置いて文太さんが『手遅れだよ』とひと言。『まあ、そんなショックを受けることないよ。ちょっと厳しめに言ったけどさ』というようなフォローの代わりに、『手遅れだよ』と言うことで気を楽にしてくれた。その気遣いに頭のよさを感じましたよ」