それが嗜好品にせよ趣味にせよ、人間、大好きなものはそう簡単にやめられるものではない。なぜなら、そこには理性ではなく、本能が大きく関わっているからである。だからこそ、たとえ公の場で「今日限り、絶対に辞めます」と宣言したとしても、それが実行されるとは限らないのである。
2018年1月19日、200人の報道陣を前にした記者会見で「音楽の道を退くことが、私の罰」と涙ながらに音楽活動からの撤退を表明した小室哲哉。だが翌2019年には名前を隠し、空間音楽を建築・芸術関係の企業に向けて提供する仕事を再開した。
さらに2020年には乃木坂46の「Route 246」に作曲・編曲として参加するなど、公の場で楽曲提供を行ってきたことは周知の事実だ。
だからとって彼を批判するつもりはさらさらないし、才能が評価され、仕事があるのなら、むしろ頑張れと声援を送りたいくらいだ。
小室は2度の結婚を経て、globeのボーカリストKEIKOと2002年に再婚した。だが2008年の詐欺事件で逮捕され、有罪判決を受ける。
そして2011年10月、KEIKOはくも膜下出血で倒れると「脳にちょっとした障害」が残ってしまったという。小室いわく、
「夫婦のコミュニケーションというのが日に日にできなくなり、会話も1時間、10分、5分という形でもたなくなり、僕から見て女性というより女の子になってしまった」
小室自身も介護疲れから原因不明のC型肝炎になり、その後、突発性難聴を発症。左耳が聞こえない状態で、入院を余儀なくされたという。
そんな中で「週刊文春」に報じられたのが、看護師との不倫疑惑だった。会見で小室は、
「お恥ずかしい話、もう男性としてのそういった要求とはかけ離れていまして。彼女を女性として呼んだことは1回もありません」
不倫については全面否定した上で、
「2010年に判決を受けたのと同じような感覚で。ピークを過ぎたという胸騒ぎ、もうここまでだと思っていた矢先、『週刊文春』さんから取材を受けて。皆さんに注目していただけるのも今日が最後。本当にお世話になりました」
なんと突然、引退を宣言したのである。
この誰もが想像していなかった衝撃発言に、会見前までの風向きが一変。世間には「介護に疲れた人を追い詰めるとはなにごとだ」「こんな才能を滅ぼす文春はけしからん」といったトーンが溢れ、「週刊文春」が集中攻撃を受けることになったのである。
とはいえ、この騒動、2人が正式離婚する2021年2月まで、芸能マスコミによってあとを引くことになる。
理由は全く異なるものの、マスコミに追及され、突然の引退会見に臨んだという意味では、島田紳助も同様だろう。そう考えると今後、性加害疑惑の渦中にある松本人志がどんな動きを見せるのかが、大いに気になるところである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。