みなさんは「カサンドラ症候群」という言葉をご存知だろうか。これは発達障害特性の人と接する人が、うまくコミュニケーションが取れず苦しむ状態を指す症状のことである。「大人の発達障害」が認知されるようになった現代で、「カサンドラ症候群」に陥る人は多い。
自分が特別だと思ったり他者を見下したりする尊大型ASD(自閉スペクトラム症)の夫と結婚し、カサンドラ症候群に苦しんだ末に離婚したA子さんが語る。
「前夫は私や義母(夫の母親)に対して『収入が少ないくせに』など、上から目線の態度をしょっちゅうとるような人でした。例えば私や義母と食事をした時にお会計は全て済ませてくれるんですが『いいよ、お前ら金ないじゃん』とさりげなく相手をモヤモヤさせることを言うんです」
友人に対しても同様に、見下した態度をとっていたといい、
「猫を飼っていたんですが、同じく猫を飼っている友人が写真を送ってくれたんです。11歳の高齢期の猫ちゃんで、私が『可愛いね』と言うと、夫が『ボロボロじゃん。うちの猫の方が可愛い』と。共感性に欠けていて、相手がどう思うかあまり気にしないのも、尊大型ASDの特徴です」
結婚当初はこんなこともあったという。それは結婚式を終えて、A子さんが祝儀のお礼リストを作っていた時のこと。前日に飲み会で夜遅く帰ってきた夫が「電気がまぶしくて寝られないから消してくれ」と言ったのだ。A子さんが振り返る。
「祝儀のお礼には夫の会社の人のものもあります。深夜遅くまでやっていて注意されるのはわかるけれど、朝のことですよ。この頃からすでに、なぜ結婚したんだろうという気持ちが芽生えていきましたね。その後も夫の言動が続くたびに、夜に眠れない日が増え、最終的には病院で『抑うつ傾向がある』と診断されました」
A子さんの症状は悪化し、日ごとに無気力になっていった。しかし、夫は変わらず同じ態度を崩さない。最終的には体調不良で寝込んでいるA子さんに対して「なんで今日1日家にいたのに、掃除してないの?」といった心無い言葉を投げかけたという。これが決定打となって、A子さんは離婚を決意した。
離婚後はそれまでの症状が収まり、驚くほど穏やかな日常が戻ってきたと、A子さんは言う。その後、メディアでカサンドラ症候群の存在を知り、自分もこれに当てはまるのではないかと気付いたのだった。
なお、A子さんの夫は外ヅラは良かったため、彼女の苦しみは周囲に十分に伝わっておらず、離婚後には「どうして離婚したの?」と驚かれたという。
大人の発達障害は外見からはわかりにくいため、パートナーがカサンドラ状態になっても周囲から理解されず、ひとりで悩むケースが多いと言われている。
もし自分がカサンドラ症候群かも、と感じたらひとりでは悩まず、信頼できる友人や家族との共有を考えよう。気になる症状があれば、医師の診察を受けるなどして相談することも大切だ。
(結城りさ)