中央アメリカの中部、ホンジュラスの密林奥地モスキティアには、古くから財宝をたたえた黄金郷「エル・ドラド」が存在するという伝説がある。伝承によれば、その場所は「猿」を神と称える「猿神王国」であったとされてきた。
そんな「猿神王国」で作られたというアルマジロの彫像を、アメリカ先住民の遺物コレクターである大富豪が購入したのは1920年代。興味を持った大富豪は、さっそくミッチェル・ヘッジスという探検家を雇い、「失われた猿神王国」についての情報収集と、そこに眠るとされる遺物発見を命じた。
するとヘッジスは捜索の最中、片目を失いながらも「モスキティアの山奥に文明が存在していた」という情報と、相当数の遺物を携えてジャングルから帰還。だが残念ながら、場所の特定には至らなかった。
ヘッジス帰還のニュースは瞬く間に広がり、「失われた猿神王国」の存在がにわかに信憑性を帯びる。国立博物館だけでなく、ホンジュラス大統領も探検に積極的な姿勢を見せるようになり、大富豪を含めた3者による探検が計画された。考古学研究家が語る。
「ヘッジスに次いで現地に入ったのが、カナダ人ジャーナリストのスチュワート・マレー。彼は1934年と1935年にジャングルに入り、彫刻や象形文字が刻まれた石など、王国時代に造られたと思われる遺物発見に成功しました。そして1940年になり、今度は戦時中にアメリカのスパイとして活躍し、映画『インディ・ジョーンズ』のモデルにもなった探検家セオドア・モルデが、地質学者を伴ってジャングルに分け入った。ついに猿神王国を発見した、との知らせがもたらされることになったのです」
だが、盗掘を恐れたモルデは3者に対し、場所については頑なに口を閉ざした。そのまま王国の位置を告げず、死去してしまう。「猿神王国」の場所はわからぬまま、半世紀以上の時が流れた。
コトが激しく動いたのは、2015年5月。米コロラド州立大学の考古学者クリストファー・フィッシャー率いる探検隊チームが、モスキティアのあるエリアから、紀元前1000年から1400年のものとみられる遺物54点を発見した。止まっていた歴史が、ついに動いたのだ。
「フィッシャーは2012年、研究室で最新のレーザー光走査装置から送られてきた画像を分析。それをデジタル化すると、そこには用水路や貯水池など、人間の手によって作られた土地と集落の痕跡が確認されたのです。そこで、この一帯が『失われた猿神の都市』だった可能性が高いと判明。世紀の大発見として、国内外で大きなニュースになりました。それを実際に確認するため現地に入り、遺物発見となったわけです」(前出・考古学研究家)
遺跡は渓谷を流れる川に沿って1.6キロ以上にわたって広がっており、その後の発掘では石版や彫像が見つかった。その中のひとつに、牙を生やした半人半獣の頭部を象った石の彫刻があったことから、2016年に同地を視察に訪れたエルナンデス大統領により、「ジャガーの都市」と名付けられることになったのである。
(ジョン・ドゥ)