2024年5月に起きたこの出来事は、鉄道業界にとって極めて大きな意味を持つことになる。
西武鉄道はXの公式アカウントで、小田急電鉄から譲り受けた8000形(写真)の第1編成が、西武の小手指車両基地に到着したと発表した。投稿では、ロイヤルブルーの帯の8000形とレモンイエローの西武101系が連結された写真や、横並びのショットも公開されている。
この小田急8000形は西武鉄道が「サステナ車両」と呼ぶもので、40両が西武に譲渡されることになっている。また、東急電鉄からも9000系を60両前後、両数は未定だが9020系も購入することが決まっている。西武の国分寺線や多摩川線、多摩湖線、秩父線、狭山線に投入される予定だ。
西武鉄道はこれまで、国鉄の払い下げという一部の例外を除き、自社で車両を新造してきた。それが初めて他社、それも私鉄の中古車両を購入する。なにしろ101系など自社の車両を日本各地のローカル線に譲渡するなど、これまでは車両を供給する側だったのだ。それが購入する側に回ったことで、「格落ちした」と見る鉄道ファンは少なくない。
SNSには「小田急のお古を使うなんて西武どうしちゃったの」「他社のお古をもらうなんて恥ずかしくないのか」と突き放す投稿も見られる。鉄道ライターの見解を聞こう。
「新型コロナの影響で鉄道利用者は減り、今後も少子高齢化で右肩下がりになっていくことがわかっています。鉄道会社にとって経費削減は至上命題で、大手私鉄の西武鉄道といえども、これは変わりません。そのために中古車両を使うのは悪くないアイデアなのですが、購入した車両がどうもよくない。小田急8000形は41年も前に運用が始まった、古い形式です。西武の利用者にしてみれば『なぜ今さら、こんなに古いものを』と思わずにはいられません」
譲ってもらう相手も問題で、
「西武鉄道にとって小田急電鉄、東急グループは『箱根山戦争』と呼ばれる猛烈な戦いを繰り広げた仇敵です。箱根山戦争は戦後間もなくに、箱根や伊豆の観光アクセスの輸送シェアを争って、バスや鉄道、観光船やロープウェイまで巻き込んで繰り広げられ、最終的に運輸大臣が調停に入らざるをえないほど、激しく対立しました。1960年代後半には終結し、その後は和解していますが、今回の中古車両購入は『西武鉄道が小田急と東急に膝を屈し、下手に回った』と捉えられかねません」(前出・鉄道ライター)
さらに西武鉄道の頭痛の種になるかもしれない、こんな発表もある。京成電鉄が5年ぶりの新型車両「3200形」を導入するというのだ。2025年の冬から運用を始め、以降も継続して導入する予定である。
「企業規模で言えば、西武鉄道と京成電鉄は比べものになりません。西武は間違いなく大手私鉄ですが、京成は失礼ながら格下になります。格下の京成が車両を新造するのに、西武が他社のお古を使うというのはいかがなものか、と言われるかもしれませんね」(前出・鉄道ライター)
西武の選択は「かしこい判断」になるのか、それとも「残念な決断」になるのか。答えは間もなく出るだろう。
(海野久泰)