昨年までプロ5年間で1軍出場はゼロ。ということは、記録上も無安打。そんな選手がセ・パ交流戦で、史上最高打率4割3分8厘での首位打者になったのだから、世の中わからないものだ。
セ・パ交流戦を席巻した躍進の主たる日本ハムの水谷瞬外野手は、もちろん満場一致でのMVP受賞となり、賞金200万円を手にした。最高打率に加えて28安打、出塁率4割7分1厘も1位だった。しかも3本塁打と、長打力も秘めていることが判明したのである。
2018年のドラフトでソフトバンクに5巡目で指名されて入団。ところがその後は2023年まで、2軍と3軍を行ったり来たりの生活が続く。その間、1軍に呼ばれることはなかった。
そして昨オフ、現役ドラフトの対象となり、新庄剛志監督の日本ハムに「指名」されて移籍。それが今や、パ・リーグで突出した存在になっているのだ。
この「突然変異」をもたらしたのは、日本ハムならでは、あるいは新庄監督ならではの采配があったからこそ。
「なにしろソフトバンクは選手層が厚すぎるため、他球団では1軍でいけそうな選手が2軍にゴロゴロいました。水谷は2軍ではそこそこの数字を残していましたが、いかんせんソフトバンク1軍の壁は高かった。対する日本ハムは長らく低迷しており、戦力不足。新庄監督が無名の若手に競争を促し、育成して平等にチャンスを与え、引き上げる手法をとったことで、水谷のような選手が日の目を見た形です」(スポーツ紙デスク)
いわば宝石の原石が磨かれつつある状態なのだろうが、そこは新庄イズムのなせるワザ。水谷自身は交流戦MVPについて、
「活躍は交流戦だけだった、と言われないように、リーグ戦再開からもチームに貢献できるよう、全力で頑張ります」
と、今後への意気込みを語っている。
なにより喜んでいるのは、くすぶっていた苦労人を表舞台に立たせ、水谷に野球の喜びを感じさせることができた新庄監督かもしれない。