ギャンブル場には「今日は終わったらどこで飲もうかな」とぼんやり考えながら出かける。競輪場周辺にファンが集まる飲み屋はないだろうか、駅近くに気の利いた飲み屋はないか…。「ぐるなび」や「食べログ」などで調べるようなことは金輪際ないから、どこで飲むかもどの店に入るかも、常に当てずっぽう、その時の勘だけだ。飲み食いするところくらい、当たりでも外れでもいいから勝手に決めたい。
7月15日の出撃先は、JR常磐線北松戸駅にある松戸競輪場。自宅からは最寄りの代々木上原駅から千代田線、北千住からは乗り入れの常磐線になり、1本で行ける。ただし各駅停車なので、1時間弱かかる。
いつもは北松戸駅周辺をウロウロするが、定位置となる店はなく、新しい店を開拓したい。路線図を見ると、北松戸駅の手前が松戸駅、その手前は金町駅。金町? 最近、この駅の名前を何度か口にしている。寅さん映画の博さんを演じる前田吟さんに「男はつらいよ」を語ってもらう連載をやっているが、前田さんに柴又でお話を聞くことになり、春先、金町経由で柴又で降りて、帝釈天の通りを歩いた。つまり金町も松戸も、寅さんワールドの隣組のような土地柄ということだ。
そう考えると、金町が急に身近に思えてきた。「今日は金町で一杯」と決めて出陣である。
松戸競輪場で行われていたのは、男女の「夜の王者」を決める3日開催のナイター、GⅡサマーナイトフェスティバルと、ガールズケイリンフェスティバル。決勝がある最終日だった。
北松戸駅で後輩の溜め息大将と合流。大将とはこれまで何度も一緒に競輪に出かけているが、彼はいつも負ける。溜め息しか聞いたことがない。この日、まさか大将と一緒に溜め息をつくことになるとは考えてもいなかったのだが…。
駅から競輪場までは、徒歩3分程度だ。その間に2人で手短かに初日、2日目のレースを総括する。分析はほぼ一致している。
空きがあればクーラーが効いた特観席に入ろうと考えたが、1Rスタートの2時間前、13時には完売したという。そうなると、場内をあてもなくうろつく流浪の民になるしかない。この日は海の日の祝日であり、3連休の最終日。場内は家族連れ、カップルでゴッタ返している。
「歩くのもひと苦労だね」
「蒸し熱いけど、カンカン照りじゃなくてよかったですよ」
気温は30度手前。汗が吹き出るほどではなく、過ごしやすい方か。ただ、ホームスタンドの声援が熱くてものすごい。活気があるのはいいことだ。ついでに車券が盛り上がるのを祈りたいところ。
この日は4Rから。車券を買う際、バッグからお札を取り出した。
「新しい『栄一』さんはもう見た?」
「まだ見てないですよ」
溜め息大将はそう言うので、「これだよ」と新札の1万円を出す。大将は手に取ってかざしたり、スリスリしたりしている。
「今日は競輪場から何枚の『栄一』を持ち帰ることができるかなぁ」
大将はヒャッヒャッと笑う。だが、4Rの結果はドボン。
次の5Rは近ごろ好調な中部の藤井侑吾が人気になっているが、地元の根田空史―鈴木裕の千葉両者に静岡の岡村潤がつく南関ライン狙い。紛れも考えて、3着だけ多めのフォーメーション36点とした。これは鈴木、根田、岡村のライン決着で3連単4630円。車券は当たったが、ビール代分が浮いただけ。「栄一」の払い戻しはない。
ホームスタンド正面には、女旅打ちのリリコ嬢が陣取っていた。7月20日に震災で休んでいた熊本競輪が8年ぶりに再開するので、参戦予定だと伝えると、
「私が行ってない競輪場は熊本だけなんです。行きたいな」
競輪場43場の完全制覇に王手。リリコはやっぱりすごい。こちらは97あるギャンブル場制覇まで、残りJRA3場だ。お互いに全場制覇の祝杯をあげる日は近い。
(峯田淳/コラムニスト)