「あの人は歩いてるだけで、1匹だけ虎がいるみたいな感覚なんですよね。人間社会の中に…」
元レスリングのフリースタイル選手であり、総合格闘技に転向後は9戦全勝の中村倫也(なかむらりんや)が、関根勤のYouTubeチャンネル〈関根勤チャンネル〉に出演すると、「ある意味、怖すぎる格闘技選手」として山本KID徳郁(2018年他界)を挙げた。それが冒頭の表現だったのである。
中村はKIDの姉で元レスリング王者の美憂が立ち上げたキッズレスリング教室でレスリングを学び、山本家とは縁浅からぬ関係にある。美憂が指導できない日は、美憂の妹・聖子が指導にあたっていた。彼女もまたレスリングの元世界王者で、現在はダルビッシュ有の妻だ。
関根が「聖子さん強いでしょ」と尋ねると、
「めちゃくちゃ強かった。ヤバいっす、あの人は」
中村は興奮した面持ちで、声を大にしてそう主張したのだった。格闘技通の関根が言う。
「(山本KIDは)ちょっと悪魔王子に似てるよね。ナジーム・ハメドみたいな感じ」
これに中村が明かしたのは、
「『あのスタイルを参考にしてた』とは言ってました、徳さんは」
ナジーム・ハメドとは、ボクシング元IBF・WBO・WBC世界フェザー級王者。うすら笑いを浮かべながら腕をだらりと下げ、ノーガードで相手のパンチをヒョイと避けたり、ダンスを踊るように飛び上がってパンチを打つなど、相手を翻弄するトリッキーなスタイルでKOの山を築いた。それも類い稀なる動体視力と反射神経あってのこと。並大抵の選手が真似してできる芸当ではない。
山本KIDはK-1初戦の村浜武洋戦(2004年2月24日)において、攻撃時に飛び跳ねたり、ノーガードで立ち向かうなど、まさにハメドを彷彿させる動きで2回KO勝利している。彼もまた、類い稀なる格闘センスの持ち主だった。
(所ひで/ユーチューブライター)