2018年から2019年にかけて全国の競輪場を回った「令和元年 競輪全43場 旅打ちグルメ放浪記」という著書を出版した。競輪場巡りの本は1989年に漫画家の横田昌幸さんが「全国50場 競輪巡礼記」を出しているので、30年ぶりの全国制覇の競輪の旅打ちモノになった。こちらが令和元年版なら、横田さんは平成元年版。30年の月日が流れ、競輪場は50場から7場減って43場になったことになる。
43場のうち一度も行ったことがないのは、熊本競輪だった。2016年の熊本地震で被災し、再開のメドがたたない状態が続いていたので、執筆にご協力いただいた競輪の公益社団法人JKAに相談したところ、いずれ再開するので43場として、再開後に改めて旅打ちに出かけるのはどうか、ということになり、タイトルは「全43場」としている。その熊本競輪が7月20日、8年4カ月ぶりに復活した。真っ先にここに飛ばなければならない。
というわけで、オープン初日に満を持して熊本に出かけた。FIのS級シリーズは、再開を祝うにふさわしい豪華メンバーが揃った。6月にGI・高松宮記念杯で初タイトルの北井佑季、地元熊本の総大将・中川誠一郎と若武者・嘉永泰斗らだ。
火の国、肥後熊本の地を踏みしめるのは、今回が2度目となる。最初は30年以上も前だ。取材のついでに「滑走路」と言われる直線が日本一長い約70メートルのバンクを覗いてみようと思ったが、時間がなくて断念。今回は万難を排しての熊本入りである。同行したのは夕刊紙営業担当のイワオ君だ。
線状降水帯、熱波、猛暑といった嫌な言葉がテレビから連日聞こえてくる、この季節。熊本空港に着くと案の定、熱風が体を包む。日差しがジリジリと肌を突き差す。火の国の暑さはキツイ。
空港からはレンタカーを利用する。熊本市街へは一本道が続き、快適なドライブを楽しむことができる。市街地に入ると、道は熊本城に向かって一直線だ。天守閣に登れるとは聞いているが、地震で石垣などが壊滅的に崩れた熊本城の姿ははたして…。
南門から入ると、目の前に大きなお城が迫ってくる(写真)。所々に足場が組まれ、白く覆われた建物がある。展示されている壊れた石垣のパネルを見ると、被害の甚大さがわかる。天守閣へは坂を上がって進むことができるが、全体を完全に修復できるまでには、まだまだ時間がかかりそうである。しかし天守閣から眺める熊本の街は遠くの山々に抱かれ、広大だった。
競輪場に着いたのは12時過ぎ。駐車場がどこも満車で、グルグル回りながらどうにかスペースを確保することができた。
熊本競輪場は周長が500メートルの大きなバンクだった。同じ500メートルでは、大宮競輪場に似たイメージがあった。それが周長400メートルになり、直線が9メートル短くなって60.3メートルに。かつてのバックとサイドのスタンドが取り壊され、コンパクトなスタンドに生まれ変わった。
まずは事務所へ、再開のお祝いの挨拶に向かう。応対してくれたのは、所長と熊本市の部長。所長は想像をはるかに超える賑わいに、嬉しい悲鳴を上げていた。10月にはGⅢ記念競輪が行われる。次年度、2026年2月のGI・全日本選抜競輪などについても、うかがうこともできた。
さて、再開した熊本競輪の初打ち、スタートだ。
FIは7車立てのレース。バンクの特性がまだわからないので、6Rと7Rは軽く様子を見る。というか、競輪場に来るまでにイワオ君に「今日の飛行機は625便。最後まで②⑤⑥のボックスを買い続けよう」と宣言したので、3連単②⑤⑥のボックスだけだ。
6Rはマクリ、筋違いの追込みの1・2着で、④①②2万3670円に。7Rは本命①が逃げ、①⑦③の1番人気決着で580円。②⑤⑥車券はいずれも、カスリもしない。
「腹減ったね」
イワオ君と1コーナー付近にある「輪音(りんね)食堂」でランチタイム。ホルモン煮込み定食850円でイワオ君と一致したが、すでに売り切れだ。なんと残念。代わりにチャンポン800円、イワオ君は肉ごぼううどん650円となった。熊本のホルモン煮込みは、次回のお楽しみとしよう。
(峯田淳/コラムニスト)