「まず暑かった。こんな中でサッカーやっちゃダメだろ。質が落ちる。日本の夏はサッカーをしてはいけない。夜でこんなキツいんだから、子供たちはやばいよ」
7月29日には栃木県佐野市で41度を超えて今年の全国最高気温を記録するなど、連日、熱中症警報が鳴らされている。そんな中、横浜F・マリノスの守護神・飯倉大樹が酷暑のゲームについて、冒頭のような苦言を呈したのである。
7月20日に国立競技場で行われたJ1第24節の横浜F・マリノス対町田ゼルビアの一戦は18時のキックオフだったが、35度を記録した日中からわずかに気温が下がっただけだった。
これまで酷暑の試合はたびたび問題視されてきたが、現役選手が厳しいメッセージを送ったのは珍しい。スポーツライターが夏場の試合についてこう話す。
「フィールドプレーヤーがバテバテになるのは当然で、お互い〝省エネ〟サッカーになり、守備的な布陣のチームが増えます。サッカーの内容がガラリと変わってしまうことで、見ている方は暑いし楽しくないし、マイナス面しかありません。優勝争いは夏を乗り切るのがポイントと言われているとはいえ、もはや命の危険すら感じる状況で試合どころではないというのが実情でしょう」
当然、この問題はJリーグだけに限らない。今年から抜本的な改革に動き出したのは、全国高校総合体育大会(インターハイ)のサッカー男子である。
今年のインターハイは北部九州4県(福岡、佐賀、長崎、大分)で開催しているが、サッカーは東北地方の福島県にあるナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」で熱戦が繰り広げられている。
「炎天下でのプレーを避けるため、今年から夏に比較的涼しい地域の福島で固定開催します。これまで休養日はわずか1日でしたが、それを2日に増やして過密日程を解消。選手たちはコンディションを調整しやすくなりました」(前出・スポーツライター)
酷暑を避けるだけではなく、期間中には5万人が訪れると見込まれ、地元周辺の飲食店や宿泊施設は大きな経済効果に期待を寄せていた。
一方、毎年酷暑が問題になるのは、夏の高校野球だろう。昨夏の甲子園では選手が熱中症を訴えたケースが34件で、スタンドで応援していた観客が熱中症で病院に運ばれる事態が頻発した。当然、高野連(日本高等学校野球連盟)は対応策を講じていないわけではなかった。
「5回裏終了後に10分間の『クーリングタイム』を導入したり、ベンチ裏に理学療法士が付き添ってアドバイスを送っている」(前出・スポーツライター)
だが、一定の効果は見られたものの、もはやマウンド上の気温は素足では歩けないほど高いと言われている。よって投手の質は下がる一方ということから、今年は日程の一部で「朝夕2部制」を試験導入するが、できる改革はやりつくした感が否めない。
「識者の間では、選手ファーストを考えて冷房が効く『京セラドーム案』がたびたび提案されています。しかし、日本高野連に『聖地=甲子園』の伝統とイメージを手放す考えだけはないようです。選手に致命的なことが起きるまで球数制限や試合開始時刻を少しイジる程度で何とかしたい、という考えでは困るのですが、夏の気候は年々厳しくなる一方です。野球界が『第2の聖地』を作る努力をしないのなら、状況は何も変わりません」(前出・スポーツライター)
ちなみに高校サッカーでは、冬の選手権の聖地・国立競技場が東京五輪の改修作業のために使えなくなり、93回大会から7大会にわたって埼玉スタジアムで決勝が行われている。その際、高校生の間では「新たな聖地」としてしっかりと受け入れられていたが…。
あまりの酷暑にプロ野球では、7月19日の神宮球場のナイトゲームで横浜DeNAの選手からは、熱中症の症状で体調不良者が続出している。
昼間にテレビの文字放送を見ると、必ず「外出を控えてください」とテロップが入る、そんな危険極まる状況で、「甲子園」だけは特例として無視し続けるのだろうか。
野球ファンには申し訳ないが、高校野球は「聖地移転」を柔軟に考えるタイミングにきているかもしれない。
(風吹啓太)