熊本競輪場が位置するのは熊本県庁、水前寺公園がほど近く、水前寺野球場・競技場が隣接する街中にある。熊本城からは、車なら数分か。
出かけたのは熊本競輪が8年4カ月ぶりに復活した初日の7月20日。あの熊本地震の被害から立ち直った感慨は深い。そしてとにかく暑い。脚までべとついて、汗でスラックスが濡れている。
8Rはランチタイムで車券は買わず。勝負は9Rから再開する。
「最後に逃げる本線の②⑤⑦で堅そうですね」
この日、同行したイワオ君(夕刊紙営業担当)が言う。この日、熊本空港まで乗ってきた飛行機は625便。最後まで「あやかり車券」②⑤⑥のボックスを買うつもりだけに、このレースは3番手を回った⑦が離れ、⑥が突っ込めば的中となる。というわけで②⑤⑥のボックスと、②=⑤から3着①③④⑥も買うことに。
レースはライン3車の②がマクリ、⑦が離れたらと願ったのだが、そのままラインで決着。ただし、最後は⑤②⑦か⑤⑦②かと思ったら、2番手を3番手がさらに追い込んで⑦⑤②。2番手、3番手が先に入線の⑤⑦②ならズブズブ、さらに⑦がかわしての⑦⑤②は「かわしのかわし」という。かつて「かわしのかわし」は旧熊本バンクなど直線が長いバンクではよく見かけたが、新バンクは以前より10メートルも直線が短い。しかも、今のスピード競輪ではあまりお目にかからない決まり手だ。3連単は6730円。
「久々にかわしのかわしを見たね。直線が短くなっても、バンク特性は前と変わらないということかな」
そうつぶやくしかなかったが、新バンクはひと筋縄ではいかなさそう。加藤清正が造った、難攻不落の熊本城みたいに。
10Rはここがホームバンクの⑦①に、九州の⑤がつけて本線。スタンドでは地元の選手を応援するファンの声がすごい。⑦①から4点と、②⑤⑥ボックスでいく。結果は⑦①⑤が④③にあっさりマクられ、3連単③④⑦、2万2140円の好配当だった。
「地元で気合いが入っている選手が、あんなにあっさりマクられるとは」
「決まり手の傾向がマチマチですね」
イワオ君と2人で頭を抱える。
11Rも④①の熊本両者に長崎の⑤がつける、④①⑤の九州ラインが強い。①は④よりも競走得点が上で、直線が短くなったとはいえ、①が差せないはずがない。車券は①④から②③⑥⑦、①⑤から②③⑥⑦と、例によって②⑤⑥のボックスを。
さて、結果は①が逃げ切り、3連単はそのまんまの④①⑤1170円。10Rとの違いは歴然で、ますます傾向がわからない。
最終12Rは6月の岸和田GIで初タイトルを獲り、8月の平塚で行われるGIオールスター競輪のファン投票でベスト9に選ばれた北井佑季が出走する。①番車だ。
迎え撃つは②嘉永泰斗と⑦中川誠一郎という、熊本の両者。熊本を代表する⑦中川が、ここで取りこぼすことはない。①をマークする⑤山崎芳仁は横が苦手だから、①⑤で先行しても②が⑤をどかす可能性大。
よって車券は①②⑦のボックスと、中川がシクることも考えて①=②から③④⑤⑥。それに②⑤⑥のボックスを。
レースは北井が期待通りに一気に駆け、ゴールは山崎が差して⑤①、3着に②嘉永がはいって4780円。6連敗である。搭乗便の②⑤⑥車券は、まったくのムダ打ちとなった。ガックシ。イワオ君と天を仰ぐ。お祝いで駆けつけた熊本はボウズで終了。ドボン、チーン…。額と首筋から汗が滴り落ちた。
入り口へと歩いていると、まだ帰らず熱心にモニターを見ている人たちがいる。今日はGⅢ・福井記念の初日、12R特選を場外発売中だった。
「最後に福井の車券を当てて帰るか」
というわけで、3連単③=⑦から①②④⑥⑧⑨の12点を。結果は⑦③⑥4290円。ようやく的中である。
「まさに一矢を報いた感じ」
とイワオ君に声をかけたが、彼は買い損ねようだ。
レンタカーを返却してから、街中をスイスイ走る市電で繁華街の辛島町に出かけた。名物の馬刺しの店が、右にも左にも。横丁にある落ち着いた店に入り、馬刺し、それから近年人気の熊本名物たる赤牛のステーキを。日本酒はこの日、12Rに出場して3着だった嘉永泰斗の名前がついた地酒「泰斗」をグビグビッと。
初日の入場者は約3000人。当初の見込みの何倍かだったらしい。火の国の暑くて熱い1日が終了した。
(峯田淳/コラムニスト)