群馬県沼田市と聞いて、どんなイメージを持つだろうか。沼田市は群馬県北部にあり、高崎や前橋とは1時間に1本しか走らないJR上越線でつながっている。
名物といったら、まずは「日本一美しい河岸段丘」。平らな台地と急な崖が連続してできる階段のごとき地形が、NHKの「ブラタモリ」で紹介されたりして、けっこう知られている。
かの真田信之が整備した「沼田城」があった場所として、NHK大河ドラマ「真田丸」には、しばしば登場していた。歴史と豊かな自然が共存した美しい町だ。
しかし1969年に沼田で生まれたある女性にとっては、他の多くの地方の町と同じように、昔ながらの慣習が残る、窮屈で自由がなかなかきかない町だった。
「周りに迷惑がかからないように、学校の校則や隣り近所の約束事を守って、真面目に生きなくてはいけない」
周囲の、特に父親のそんな押し付けがイヤでイヤで、彼女は小学生の頃からタバコを吸う、とんでもない子供だった。おかげで高校では喫煙がバレて無期停学処分の末に、3カ月で中退。だから最終学歴は中卒だ。そんな人間が故郷にいても、なかなか居場所が見つかるはずもなく、その後の人生は放浪の連続だった。東京で芝居に出たと思ったら、沖縄・宮古島のハンバーガー屋や居酒屋で働くようになったり、インドをはじめアジア各地をマウンテンバイクで走り回ったり、山梨・富士吉田の旅館の仲居になったり、東京・新橋のカジノのディーラーになったり。
千葉でカラオケスタジオの店長をやっていた時、つい働きすぎで左目が見えなくなってしまい、一時的な休養のつもりで沼田に戻ってきたのは、20年あまり前のこと。所詮Uターン組の彼女は、左目が見えるようになってもならなくても、しばらくの療養に耐えつつ、こんな窮屈な檻からは早いところ逃げ出して新天地に移り住むことばかり考えていた。
ところが、いつの間にかたくさんの仲間たちと出会い、もっと故郷を元気な町にしたいと動くうち、気が付くとあんなに嫌いだった沼田を飛び出したい気持ちはなくなり、ついには昨年、市議会議員になってしまっていた。
沼田ばかりではない。日本のほとんどの町が少子高齢化と人口減少に悩む中、どうすれば沼田を、ひいては日本全体を、愛と希望と活気にあふれた、もっと住みよい場所にできるか。それを日々、考え続けているのが、沼田市議・今成あつこ氏だった。
なんと彼女の著書が、8月2日に刊行されたという。題して「ハチャメチャ放浪少女が、群馬の沼田市議会議員になった! 日本の洗濯は沼田から!」(山中企画)。
波乱の人生を送った女性が、まさかのチャレンジに乗り出したのはどうしてなのか。おそらくこれを読めば、地方政治をだいぶ身近に感じることができるのではないか。