不祥事に対する内部告発が相次いだ鹿児島県警。いずれのケースも〝告発者〟を逮捕し、幕引きを図ろうとした。ところが、それがかえってアダとなり、非難轟々の事態へと発展。ついに、警察庁の特別監察が入るに至ったのだが‥‥。
「あれは公権力を使った問題の逮捕劇。ずばり言えば、〝隠蔽捜査〟だ」
警察幹部の証言である。身内から、こんな声が上がるのだから世も末である。
この幹部の言うところの〝隠蔽捜査〟が動き出したのは今年4月8日のことだ。鹿児島県警は元巡査長を地方公務員法(守秘義務)違反の容疑で逮捕し、同時に福岡のニュースサイト「HUNTER」の事務所を家宅捜索した。元巡査長が23年6月から今年3月までの間、3回にわたって同サイトの記者に捜査情報を漏洩したというが、これは内部告発以外の何物でもない。それほど許しがたい内容だったのだ。
県警OBの息子による強制性交事件の刑事告訴を受理せず、もみ消そうとした一件のほか、県警の隠蔽体質を暴露する内部文書もあった。それは「刑事企画課だより」と題された文書だが、県民のものである捜査資料の廃棄を促した上、こう〝指示〟していたのだ。
〈再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!〉
一体誰が犯罪者かわからなくなるが、この隠蔽捜査は、さらなる進展を見せた。同日の家宅捜索で押収されたパソコンの中に、現職警官の犯罪を立件しようとしないことを内部告発した別の文書が保存されていたからだ。県警は、この文書を元に告発者を特定の上、5月31日に元生活安全部長を逮捕したのである。
内部告発潰しのマスコミへの強制捜査、押収した無関係の文書を盗用しての県警元最高幹部の逮捕‥‥これほど滅茶苦茶な捜査は見たことがない。まさに前代未聞。よほど野川明輝本部長が内部告発を嫌っており、それがために公権力を濫用したのか。それとも、側近の謀反がどうしても許せなかったのか。
いずれにせよ、世間の耳目を集めたこの一大事は、あたかもイチ県警の闇、イチ本部長の問題であるかに見えた。警察庁の監察チームが重大事案と認定して現地入り、特別監察を開始したのも、その証左であると。
だが、本部長経験のある警察キャリアが指摘する。
「警察庁もおかしなことをやるもんだ。ああいった不祥事がらみの捜査の場合、あらかじめ警察庁に相談し、お墨付きを得てから踏み切るのが通常の手続きだ。特にメディアが関係する場合には、警察庁の承認が絶対に必要で、ガサ(強制捜査)をかけるとなれば、なおのこと。にもかかわらず、あたかも中立公正な捜査官であるかのように見せて特別監察に入るとは、一体何を考えているのか」
時任兼作(ジャーナリスト)