高校野球で7イニング制の導入が検討されている。夏の甲子園で近年、行われている暑さ対策の一環。昔より気温が上がっており、球児たちの健康を守らなければいけないという。「健康第一」の掛け声の前には「反対」の声を上げにくい。それでも、長年、野球にかかわってきた一人として、7回制には反対したい。
野球は終盤の7回以降にドラマがあり、最後の一つのアウトを取るのがどれほどしんどいことか。今はプロでも完投能力がある投手が減っている。中6日で7回を投げれば誉められる時代。高校野球も継投策を取るチームが増えており、スタミナ面が鍛えられていない。7回制になったら、先発は3回ぐらいまで全力で投げて、リリーフに任す。そんな野球は面白くないし、スーパースターも生まれにくい。
今年の甲子園は、様々な暑さ対策が行われている。5回終了時に10分間クーリングタイムとして、空調の効いた部屋で体を冷やして水分補給を行っている。1回戦では昼間の暑い時間帯を避けるため、朝と夕方の2部制も導入された。それでも、ナイターの試合なのに熱中症で足をつる選手がいるし、クーリングタイムの直後にそうなった選手も少なくない。熱い体を急激に冷やして、また暑い中へ飛び出したら、体に異変をきたしてもおかしくない。
中継を見ていたら、足をつった選手にペットボトルの水なのか、スポーツドリンクなのかを必死に飲ませている。僕から言わしたら「塩をなめさせおけ」だ。何で熱中症で足をつるかというと、暑い中で走り回って、普段より緊張しているから余計に汗をかく。その大量の汗で塩分が失われているから。僕だって、現役時代に足をつったことがある。塁に出て足がつったり、つりそうになったら、ベンチからトレーナーを呼んで岩塩を持ってこさせた。それをなめたら、1分もたたないうちに治る。足をつった後でも盗塁していた。
最近の野球は過保護すぎる。本塁のブロックが中止になったり、球数制限ができたり。今回の7イニング制も現場の監督や選手に聞いたら、反対の声の方が多いはず。野球をあんまり知らん偉い人が、涼しい部屋の中で考えたことを実行しているだけ。高校球児たちはドーム球場でなく、甲子園で野球をするために、しんどい練習で鍛えている。憧れの甲子園でプレーできるのに「暑いから嫌や」という選手がおるんやろか。
僕は高校3年の夏に初めて甲子園に出て、延長13回にサヨナラ負けした。センターを守っていて、フラフラと上がった打球をお見合いして、それが決勝打となった。「14回は僕からの打順やな」とは考えていたけど、「暑い」や「しんどい」なんて、まったく思わなかった。試合前は、みんなで「腹減ったな」と言い合っていたけど、でも、あの最後のプレーで守備の意識が高まったし、いい経験になった。今は延長10回からタイブレーク。勝った方はいいけど、負けた方は完全燃焼できへんのと違うかな。
最後に気になることを一つ。僕が故障防止のためにヘッドスライディングに反対の声をずっと上げているけど、前より増えている気がする。駆け抜けた方が速い。手で済むならまだしも、首の骨を折ったら、誰が責任取るんや。テレビ中継でも「ガッツあふれる走塁」と美化するのは、ほんまにやめてほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。