1月中旬、産経新聞の加藤達也・前ソウル支局長の拘留延期が8回目となりました。これにあわせて出国禁止措置が3カ月も延長されました。韓国の外務省は「我が国(韓国)の司法当局が公判に要する期間などを勘案した。関連法に基づいた処置だ」と説明していますが、いつまで不当に身柄を拘束するのか、と思わずにいられません。
この問題、発端は昨年4月16日に起こった韓国のフェリー転覆事故です。
事故から3カ月後の8月3日、加藤支局長は産経新聞のウエブサイトに「事故当日、朴槿恵大統領が行方不明だった」との記事を掲載しました。
ネット上に残されている記事を要約すると、次のようになります。
「大統領府秘書室長は、事故当日、大統領がどこにいたか把握しておらず、風通しの悪さがうかがえる」
「朝鮮日報のコラムは『事故当日、大統領は午前10時に書面報告を受けたのを最後に、7時間ほど姿を見た者がいなかった』と指摘している。(中略)同コラムでは『隠すべき大統領のスケジュールがあったものと解釈されている。大統領は当日、あるところで“秘線”とともにいた』というウワサが作られた。秘線とは『秘密に接触する人物』であり『ウワサでは、大統領が会っていたのは元側近で妻帯者とされている』とある」
報道後、加藤支局長は韓国の市民団体に刑事告訴され、ソウル中央地検は名誉棄損の罪で加藤氏を在宅起訴しています。
昨年12月15日の公判で、告発した人物は「朴大統領と元側近が男女関係にあったという虚偽事実を加藤支局長が報道した」と告発理由を説明しましたが、弁護側の「コラムのどこにそんなことが書いてある」との尋問に、まともに答えられなかったそうです。
加藤氏のコラムは朝鮮日報の記事を引用していますが、引用元の新聞社はおとがめなしというおかしさなのです。
「日頃から韓国の悪口を書く産経新聞であるため拘留された」と言われていますが、恐らくそのとおりでしょう。
国際新聞編集者協会は「国際法の基準を逸脱している。政府関係者や公人は批判に対して寛容であるべきだ」と処罰の撤回を求めています。
この記事が名誉棄損の罪となるなら、日本中の新聞や週刊誌は名誉棄損だらけとなります。そもそも名誉棄損は裁判で争われるべきことであり、権力者が逮捕・拘留することでしょうか。民主主義国家のやることとはとうてい思えません。
「言論・表現の自由」といえど、フランスの新聞社のように、イスラム教を風刺するような内容は、言論の自由の名を借りた、行き過ぎた行為です。批判するなら真正面から節度を持って行うべきでしょう。
しかし、加藤支局長の件は100%「言論弾圧」であり「不当逮捕」です。加藤支局長の記事のどこが、拘留されるべき犯罪行為なのでしょうか。
「国際社会の常識とかけ離れている」と日本政府は抗議していますが、抗議など韓国にとって痛くもかゆくもありません。日本政府は経済制裁など、韓国が困ることをやるべきで「日本人を苦しめたり、陥れたらこうなるのだ」と威圧感を与えるべきです。
日本政府に、国民を守る意思が試されています。北朝鮮の拉致被害者を取り戻せないのは、軍事力を使ってでもこれらの人たちを救う、という決意がないためです。
世界中が批判しているにもかかわらず日本政府が何もできないのは「国際的にものすごく恥ずかしいこと」です。政府は今日も日本人を救い出せないのでしょうか。我が国の政府は自覚するべきです。
◆プロフィール 田母神俊雄(たもがみ・としお) 1948年生まれ。第6航空総隊司令官、統合幕僚学校長を経て第29代航空幕僚長に就任。08年10月、自身の論文にて政府見解と異なる主張をしたことで職を解かれる。08年11月定年退官。公式HP: http://www.tamogami-toshio.jp/