衆院選大勝で勢いに乗る安倍総理が年明けから経済政策を優先させています。「アベノミクスの恩恵など受けていない」と、景気回復の実感は湧いていないと感じる人が多いようで、今年の経済政策は安倍総理にとっての最優先であり、最重要課題です。景気が回復しなければ安倍内閣の支持率は低下し、安倍総理の目指す日本を取り戻すことはできなくなります。
振り返れば、消費税を8%に引き上げたことは失敗でした。「税金が上がる」との思いが財布のヒモを縛りつけた結果、個人消費は低迷から抜け出せません。モノが売れなくなり、結果的に税収が上がらなくなるのは自明の理でした。
加えて昨夏以降の天候不順もあり、レジャー産業や外食産業の売り上げも上がっていません。昨年の3カ月ごとの実質GDPも、14年の10~12月の数値は消費税5%の上半期に比べて下がっています。
アベノミクスの効果は出始めていますが、実感する声が少ないのは、消費税増税による物価上昇に比べ賃金が上がっていないからです。実際に受け取る名目賃金こそ上がっていますが、消費者物価は賃金上昇以上に上がっており、給料が1万円上がっても物価が1万5000円上がっている、そんな状況のため実質賃金は下がっています。物価が上がれば後追いで必ず賃金は上がります。消費税増税はそれまで待つべきでした。
10%という消費税引き上げ時期は、17年4月とされていますが、今の状況で上げても税収は増えません。真から景気を回復させるには、その時期に、いやそれ以前に5%に引き下げるほうが効果的です。
アベノミクスとは「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」を「三本の矢」としています。2%のインフレ目標や円高の是正などを掲げた金融政策は半ば成功していると思います。
機動的な財政政策は、もっと徹底するべきでしょう。例えば「大規模な公共投資=国土強靭化」は、まだまだできるはずです。電線の地中化や新幹線整備はまだまだ成長余地のある事業ですし、防衛費を増やして自衛隊の戦力強化も一つの方向性です。当然法的な枠組みは変えねばなりませんが、自分の国を自分で守る体制作りは、経済的にもかなり大きな効果となるはずで、そう考えると、防衛力強化は公共投資的な側面を持っているとも言えます。
談合を廃止して以降、建設会社は3分の1ほど潰れました。建設関係の労働者は180万人が職を失っており、公共事業を増やそうにも受け皿がないのが実情です。ならば「防衛財政」を積極的に行うのは、国の守りを強化しつつ景気回復にも効果があるのです。
財政政策に関して「これ以上借金を増やしてどうする」との声もありますが、そうした緊縮財政派の意見どおりにやってきた結果、景気はいつまでたっても回復しません。「借金返済=財政再建が先だ」という人に、もはや意見を言う資格はありません。
借金を増やさないための緊縮財政では、借金は増えてデフレからも脱却できないのです。一時的に借金を増やしても、景気が回復すれば税収は増えて国家財政はあとから勝手に立ち直ります。借金を増やすまいとする政策が間違いであることは歴史が証明しています。
三本目の民間投資を増やすことと増税は相反する政策です。なぜなら民間から金を引き上げることとなり、投資を躊躇させるからです。逆に消費税を引き下げれば「引き下げ分で投資しよう」と投資を喚起させます。
アベノミクス成功に関して、消費税引き下げと防衛費大幅上昇は、実は効果のある政策なのです。
◆プロフィール 田母神俊雄(たもがみ・としお) 1948年生まれ。第6航空総隊司令官、統合幕僚学校長を経て第29代航空幕僚長に就任。08年10月、自身の論文にて政府見解と異なる主張をしたことで職を解かれる。08年11月定年退官。