世界を震撼させたフランス新聞社へのテロ事件。発行元のシャルリー・エブド社の事務所に押し入り銃を乱射、女性警官を含む12人が死亡しました。射殺された容疑者兄弟は、体に手榴弾を巻きつけるなど戦場の兵士のような重武装をしており、射殺現場にはロケットランチャー、自動小銃、オートマチック銃、手投げ弾などが残っていました。
事件の数日後には、10歳ほどの少女2人に巻きつけられた爆弾が遠隔操作によって爆発するという、おぞましい事件も起こっています。別のイスラム過激派は数百名もの少女を「爆弾用」として拉致しており、昨年には200名以上の女子生徒を誘拐しています。当局の目を盗むため子供や女性を使った自爆テロはたびたび起こっていますが、少女たちを物で誘惑して集め、狂信的な思想を植え付けたあげく、裸の画像を撮影して公開すると脅したり、自爆に送り出す直前には幻覚剤を混ぜたジュースを飲ませているとも報道されています。
パリの事件の犯行グループの目的は「フランスがイスラム国から手を引くこと」だと容疑者は答えていました。
フランスはイスラム国への空爆に参加しており、イスラム教に対する風刺画をたびたび掲載していた同国の新聞社が狙われたようです。シャルリー・エブド社はイスラム教の預言者ムハンマドを女性に見立て半裸のイラストなどを掲載してきたそうで、4年前には火炎瓶が投げ込まれています。
テロ組織・イスラム国はすでに「国家樹立」を宣言しています。シリア北部にあるラッカを首都として市民に税金を納めさせ、各省庁や警察まで置いているとのことです。油田までも掌握して原油を販売しているとの情報もあり、まさに過激派が国家を建設していることとなります。まるでオウム真理教が大きくなったようなものでしょう。日本はオウムを制圧しましたが、国境を越えた宗教戦争の中近東だけに、我が国とは情勢がまるで異なります。
これに対し、イラク、シリア、トルコなどはイスラム国を国家として認めていません。「イスラム」を名乗っているため混同しがちですが、「イスラム教を悪用しているため、イスラム国の名称を使わないでくれ」と海外のメディアに求めている国(エジプトなど)もあるように、イスラム国はイスラム国家と折り合いが悪いようです。
事件後、フランス各地でモスク(イスラム教の礼拝堂)への発砲や放火が相次ぎ、礼拝所の扉に豚の内臓や頭部がつるされてもいたそうです。また犠牲者となった警官は敬虔なイスラム教徒であり、遺族は「イスラム教徒と過激派は別物。イスラムを嫌いにならないでくれ」と語っています。
イスラム国はもともとアルカイダと合流していましたが、イスラム国が斬首の様子を撮影して公開するなどあまりにも過激な行為を引き起こすため、最近はアルカイダと一線を画しています。高給を餌に国外から兵士を集めているようで、日本でも就職活動に失敗した北海道大学の学生がイスラム国に参加しようとして私戦予備の容疑で警察から事情聴取を受けています。
いずれにせよ、あれほど過激な手法では国際世論を味方につけられません。
今回のテロ事件についてローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は15日、「神の名において人を殺すのは愚かしい」としながらも、「あらゆる宗教に尊厳」があり、何事にも「限度というものがある」と指摘して「他人の信仰について挑発したり、侮辱したり、嘲笑したりすることはできない」と言っています。表現の自由にも一定の制約があると述べたもので、シャルリー・エブド社はイスラム教をバカにしすぎたのではないでしょうか。
◆プロフィール 田母神俊雄(たもがみ・としお) 1948年生まれ。第6航空総隊司令官、統合幕僚学校長を経て第29代航空幕僚長に就任。08年10月、自身の論文にて政府見解と異なる主張をしたことで職を解かれる。08年11月定年退官。公式HP: http://www.tamogami-toshio.jp/