商魂たくましく、あの手この手でお客を呼び込む行動力は日本でも指折りの関西。そこでにわかに盛り上がりを見せている飲食店がある。「売り」は一風どころか、メチャ変わったコンセプトにある。
その火付け役と言われるのが、大阪・谷町六丁目にある「深化」だ。通称「潜水艦バー」と呼ばれる同店の内装は、まさに潜水艦そのもの。操作盤や錆びたバルブ、計測器などが並び、壁には所狭しと配管がはう。トイレのドアは下から上へと持ち上げるシャッター式と、細部にまでこだわりを見せるのだ。
この店にはもう一つ、潜水艦と呼ばれる理由がある。在阪のグルメライターが解説する。
「古くから営業自体はしていたものの、住所も電話番号も明らかにされていない謎の店でした。地下に潜って実態がわからないという意味でも、潜水艦バーと呼ばれていたのです。しかし2年ほど前に突然、食べログに掲載され、所在がネット上に表示された。当然、待ってましたと言わんばかりに客が殺到。そこから変わりダネのオモロイBARというのが、関西の酒飲みの間でトレンドになってきたわけです」
大阪・梅田にあるシャンパン&醤油バー「フルート・フルート」も負けずにオモロイ。11年9月から営業を始めた同店のコンセプトは店名そのままに、シャンパンと醤油。スタッフの大土橋努氏は、その特徴を次のように説明するのだ。
「国内外を問わず集めた多種多様な醤油を使った料理が楽しめるようになっています。ドリンクでは海外から取り寄せたシャンパンやスパークリングワインが味わえ、毎日、常時6種類はグラスで用意しています」
醤油を使った料理と聞くと和食を連想しがちだが、同店のフードメニューのほとんどがイタリア料理とフランス料理。大土橋氏が続けて言う。
「昔、和歌山の醤油メーカーにお邪魔する機会があって、その時の醤油のおいしさが忘れられなかった。そこでいろんな醤油を使ったお店を開こうと思いました。開業前からイタリア料理やフランス料理のお店を40年近くやっていたということもあって、結果的に醤油を使ったイタリアンやフレンチを提供する形となりました。でも、看板を見て入ってくる人はほとんどいませんね(笑)」
人気メニューは「日本一! めんどくさいけどテンションの上がる卵かけご飯」(700円)だ。
「何がめんどくさいかといえば、20種類の醤油を使ってかけ比べをしていただくという点です。このメニュー目当てに、何度もお店にやって来る人もいます」(大土橋氏)
兵庫・三宮では、科学をコンセプトにしたサイエンスバー「バサラ」が繁盛している。マスターが語る。
「以前、私が大学教授として生物学を教えていたので、それを生かしたお店をやろうと思い、このバーを作りました。お客さんにはお医者さんや技術者なども多くいらっしゃいます。店内では不定期で、話題になった科学をわかりやすく説明するライブ講演もやっています。最近だとSTAP細胞やエボラウイルスですね」
一方、京都・四条烏丸では現役僧侶がバーテンダーとして働く、その名もズバリ「坊主バー」が人気を集めている。古民家を改装したこの店の常連客によれば、
「マスターは現役の浄土真宗本願寺派、光恩寺の住職。バーテンも全て現役のお坊さん。悩み相談なども親身に聞いてくれますし、1日1回、15分の説法の時間があるのも坊主バーならではでしょう」
このほか、投資顧問会社が運営する大阪・北浜の証券バー「CAFE FPeye」もオモロさ抜群。株価や市場の数値が表示された画面を見ながらグラスを傾けるのだという。
あっと驚くアイデアでお客の心をつかむ「関西オモロイBAR」の数々。夜の名所としてどんどん増殖していく気配なのである。