春季キャンプも中盤。阪神の沖縄・宜野座一軍キャンプに参加中の若虎たちも、生き残りをかけた勝負の真っ最中です。私は第2クールまで一軍に帯同しましたが、若手野手の中でいちばん目を引いたのは、ドラフト3位の江越大賀外野手(21)=駒大=でした。
ヘッドスピードが速く飛距離のある打球を飛ばします。スピードも肩も一級品です。粗削りな面もありますが、非常に可能性を秘めた選手です。沖縄では彼にあえて細かい指導は行いませんでした。実戦の中でプロの壁にぶち当たり、そこでどう対応するか。まずは自分で考える必要があるからです。順応すれば開幕から戦力となる素材です。
その江越と外野の一軍枠を争うのが、伊藤隼や、高卒5年目の中谷らです。伊藤隼は今年26歳となり、もう若手とは言えない年齢にさしかかります。今まで以上に危機感を持って、定位置を奪いにいってほしいものです。中谷は江越と同学年で、プロの先輩としての意地もあるはず。昨季までは精神面に課題を残していましたが、やっと目の色を変えて野球をするようになってきました。覚醒すれば、一気にレギュラーを奪ってもおかしくないだけの能力を持っています。内野でも北條、陽川、西田が開幕一軍を目指して、アピールを続けています。
帯同した第2クールまで、若手はそれぞれが「勝負する形」を見せてくれたので、まずは及第点を与えたいと思います。しかし、それ以上に目立っていたのが、鳥谷、福留の元気なベテラン勢でした。
特に鳥谷はオフに去就で騒がせた分、プレッシャーも感じているのでしょう。自主トレ段階から体をいじめ抜いてきたことが一目瞭然の動きをしています。今まで以上にチームを引っ張らなければという思いも強いはずです。「ホームラン20本を目指して、もっと右方向に強い打球を打つようにしたらどうか」と提案すると、練習から新打法に取り組むようになりました。
昨季までの彼の打撃スタイルは極限までボールを引き付け、基本的にはセンターから左方向へはじき返す打撃でした。87四球をもぎ取り、4割6厘の高い出塁率につながりましたが、チームの顔としてはホームランが少なすぎました。ミートポイントをボール1つ分前に移し、右足の強い踏み込みを意識すれば、最低でも20本は打てる力を持っています。鳥谷が「うまさ」ではなく「強さ」を磨けば、阪神打線は間違いなく得点力が上がります。
そして、鳥谷に負けないぐらいの仕上がりを見せているのが福留です。昨季までとは打撃の内容が違います。ムダな力みが消え、軽く振っても打球が飛ぶのです。今のまま順調に開幕を迎えれば、5番を任せてもいいでしょう。もちろん打順は和田監督が決めるものですが、鳥谷を1番に持っていき、マートン、ゴメス、福留のクリーンアップを組めれば、相当な破壊力を持ったオーダーとなります。
パスポートを盗まれて来日が遅れたゴメスの打撃をチェックできなかったのが心残りでしたが、私なりには沖縄での1週間で手応えを感じました。そして11日の第3クールからは高知・安芸の二軍キャンプで指導をスタートしました。沖縄での和田監督はいい意味で悩みが多いように見えましたが、さらに選択肢を増やすための、戦力底上げの一助となるつもりです。