“かかと体重”のスイングでは、外角の球にはバットが届きませんし、内角の速いストレートにも差し込まれてしまいます。ヒットを打っているコースは、真ん中やや内寄りの甘い球が多いはずです。イチローが時には豪快にライトスタンドにブチ込むように、長距離打者でなくとも、相手バッテリーに怖さを植え付ける必要があるのです。投手に気持ちで優位に立たれ、内角を攻め込まれるようになると、3割を打つこと自体も難しくなります。
もちろん、彼も出塁率だけにこだわる今の打撃スタイルは本意ではないはずです。1年間のペナントレースを逆算し、自分の体調を考え、チームのために今できるベストの答えとして、あえてやっていると信じています。だからこそ冒頭に書いたように、交流戦後の彼の打撃が楽しみなのです。最大でも4連戦で日程的にも楽な交流戦期間中に、体の状態を万全に戻しながら、ヒットを積み重ねてもらいたい。交流戦が終わった段階で、打率が3割2分以上あれば気持ちに余裕が生まれます。そうなると、一発狙いの割合も増えるはずです。その好循環の中で「3割20本」という数字が見えてくるのではないかと思うのです。
今年の春季キャンプで、私は「“鳥谷の阪神”として優勝しろ」と声をかけました。生え抜きのキャプテンとして彼が強烈なリーダーシップを発揮しないと、優勝できないと思ったからです。性格的に前に出て引っ張っていくタイプではないのかもしれませんが、語らずともプレーで引っ張ることはできます。
そのためには、13年のWBCで見せたような激しさが必要です。台湾戦の1点ビハインドの9回二死、井端弘和の同点打を生んだ鳥谷の二盗には、日の丸を背負う気迫が伝わってきました。残念ながら阪神のユニホームを着た鳥谷からは、あそこまでの熱さが感じられません。連続試合出場という記録が、無意識のうちに安全運転に走らせてしまうのでしょうか。確かに連続試合出場というのはすごく大切で立派な記録です。でも、それをあまり大切にしすぎてほしくない。ワンプレー、ワンスイングに激しさが欲しいのです。
今はまだ、好調のゴメスやマートンの両助っ人への「つなぎの3番」に徹している感じです。これからは右方向への強い打球のある「決める3番」の割合を増やしてほしいと思っています。鳥谷のプレーで勝つ試合が増えれば増えるほど、9年ぶりのリーグ優勝が見えてくるのですから。