オープン戦真っ盛りです。選手にとっては春季キャンプでの練習が結果につながるかどうか。首脳陣にとっては戦力を見極め、チームの形を定める時期です。3月27日のセ、パ同時開幕に向けて、各チームのファンの気持ちも日々高まっているのではないでしょうか。
阪神はオフの補強がうまくいかず、戦力に不安を抱くファンがいるかもしれません。実は、私も春季キャンプ前までは多少の不安を感じていました。チームの中に入ってしまうと、心配ばかりが増え、隣の芝生は青く見えるものです。ところが、今は胸を張って「優勝候補」と言えます。一、二軍のキャンプを巡回し、冷静に戦力を分析すると、05年以来のリーグ制覇への大チャンスと捉えています。
エース、4番打者、抑え投手の3つのポイントで、セ6球団を比べると、いちばんしっかりしているのがタイガースです。メッセンジャーは昨季、最多勝、奪三振の2冠に輝きました。今季も不安要素は見当たらず、故障さえなければ15勝近く期待できます。4番のゴメスもパスポートが盗難され、来日が遅れましたが、体もしぼれて順調に仕上がっています。相手に特徴を覚えられた2年目ですから、簡単なシーズンではないものの、打点王に輝いた勝負強さは頼りになるはずです。ストッパーの呉昇桓に関しては、何も心配いらないでしょう。
今年は鳥谷が残留した時点で、補強の必要がなかったとも言えるのです。先発の4本柱に続く、ローテ候補も若い投手が高いレベルで競い合っていますし、野手の層も厚みがあります。中でも、私が大きな期待を寄せているのがベテランの福留です。キャンプ終盤で足の張りを訴え、ペースダウンしましたが、キャンプ前半の打撃は完全復活を予感させました。下半身がうまく使えているので、軽く振っているように見えても打球の飛距離が出ていたのです。
あの打撃がシーズン中もできれば、ゴメスの後ろの5番を任せられるはずです。すると、昨季までの5番のマートンを3番に置くことができます。彼の高い出塁率は5番よりも3番のほうが生きるでしょう。1番・鳥谷で、2番に上本か西岡、3番・マートン、4番・ゴメス、5番・福留と、このオーダーが機能すれば相当な破壊力です。
他球団はどうか。やはりライバルの一番手はリーグ3連覇中の巨人です。一塁コンバートの「4番・阿部」、新守護神候補の澤村と、未知数の部分が多いのは事実です。それでも巨人の強みは、層の厚さです。誰かが故障しても、不調に陥っても、カバーできる人材がそろっているのです。長いシーズンはアクシデントが付き物です。巨人は緊急事態を乗り越える力を備えています。
確かに、広島は黒田の復帰で先発スタッフはそろいました。菊池、丸が引っ張る若い野手陣も勢いがあります。しかし、1年間を乗り切るだけの戦力層があるかどうか。昨季も終盤に失速したように、何かの拍子でチーム力がガクッと落ちてしまう危険性があるのです。強力打線が売りのヤクルトも、投手力が見劣りします。DeNA、中日も層の薄さは否めません。開幕前の机上の空論であることは承知のうえですが、阪神は巨人とともに最も優勝に近い位置にいることは確かなのです。
◆プロフィール 掛布雅之(かけふ・まさゆき) 55年生まれ。73年に阪神入団、88年に引退。13年10月、阪神GM付育成&打撃コーディネーター(DC)に就任。著書に「新・ミスタータイガースの作り方」(徳間書店)、「若虎よ!」(角川書店)など。