11月21日にボジョレーヌーヴォーが解禁となり、食欲の秋は今が盛りだ。だが、今年の風景はいつもと違うことにお気付きだろうか。
高級スーパーや輸入食材店の陳列棚に並んでいたフランスのガレット、イギリスのビスケット、イタリアのチョコレート、コーヒーや紅茶のお茶請けとして馴染みのある焼き菓子が、次々と姿を消しているのだ。世界中のお菓子を輸入販売していた商社が取り扱いを中止、あるいは海外のメーカーが相次いで生産中止しているのだという。
その理由について、高級スーパー「成城石井」の広報課に尋ねてみたところ、複雑な事情があった。
「ウクライナ情勢による原材料の高騰は主な要因ではなく、考えられるのは2点です。まず輸送費や包材費、為替など複数の要素を踏まえて、複合的に価格が決まりますが、現状、輸入品の一部のクッキー等は割高感があり、需要自体が減っています」
チョコレートやバターをふんだんに使った輸入菓子は2020年頃と比べ、価格が1.5倍から2倍になっている。成城石井がとった対応策は、プライベートブランド商品の充実だった。
「2022年に自社の新しいセントラルキッチンを稼働させたこともあり、輸入量を減らして自社製造の焼き菓子を増やしています。それがお客様よりご好評をいただいており、自社製造の割合を増やしております」(広報課)
いろいろな国の食材が並ぶ華やかな陳列棚がなくなるのは寂しいが、コスパのいいプライベートブランドの拡大は、庶民的なスーパーによるものだけではなかったのだ。
冒頭で触れたワイン市場にも変化があると、海外のワインを扱う卸売会社の社長が解説する。
「新型コロナによって大使館や富裕層のホームパーティーの頻度が減り、コロナ終息以降も世界的に高級ワインの需要は回復しません。需要があるのは輸送コストのかかる航空便ではなく、船便で輸送コストを削った、お得感のあるワインです。11月3日に解禁された国産のワイン新酒『山梨ヌーヴォー』の取り扱いが年々増え、今年は特に注目されるのも、ボジョレーと比べて輸送コストがかからない国産ワインの方が、より安く新酒を楽しめるという消費者志向の影響です」
アメリカ大統領選でトランプが再選した一因には、野球場で飲むビールが1杯3000円にまで高騰したインフレに、バイデン大統領が何の対策もとらなかったことが、有権者の怒りを買ったから、というのがある。失われた30年、手取りがいっこうに増えない我々日本人の生活は苦しいが、かといって他国も原油高やインフレに耐えられるほど、所得が劇的に増えたわけではない。
思うようにお茶菓子もお酒も楽しめない。こんな世の中では、消費者の不満と怒りが充満するSNSから選挙も政治も変わっていくのは、必然なのだろう。
(那須優子)