「うわぁぁぁぁぁぁー!!」
家族団欒の夜の食卓に、戦慄が走った。
テレビ画面に流れたのは、加齢で変形した背骨が脊髄を圧迫して起こる「脊柱管狭窄症」の手術中のシーン。40代の男性外科医が血管を傷つけ、血の海になったところに、無造作にドリルが突っ込まれる。次の瞬間、患者の脊髄がドリルに巻き付いて引きちぎられる…。
あまりに衝撃的すぎる内容に、茶碗を持つ箸が止まってしまった人は多かったことだろう。脊髄を引きちぎられた70代の女性患者は下半身不随、一生オムツが手放せない体になってしまった。
これは11月19日のNHK「クローズアップ現代」が放送した、5年前に兵庫県の赤穂市民病院で起きた手術ミスの「決定的瞬間」だった。
センシティブな内容に気分を害した視聴者はいるかもしれないが、NHKが報じたのはほんの序の口。本当の恐怖は、問題の赤穂市民病院で70代女性ら8人もの患者を死亡もしくは植物状態、半身不随にさせたこのヤブ医者が、今も大阪府内の救命救急センターに勤務し、救急車が運んでくる「練習台」を待ち受けているという事実だ。
なぜ、この40代男性外科医は医師免許を剥奪されず、事故から5年後のタイミングでNHKは赤穂市民病院事件を取り上げたのか。関西の大病院に勤務する医師が、裏事情を明かす。
「赤穂市民病院で次々と手術ミスを起こした男性医師を擁護し、大阪府内の病院に引っ張ってきたのは、阪神淡路大震災やJR福知山線脱線事故で陣頭指揮を執った『救命医療界のドン』と呼ばれる大物医師なんです。大学病院教授だった当時から、教授の医局は兵庫県内の病院人事を掌握。兵庫県内の片田舎の弱小公立病院が『うちにヤブ医者を送り込まないでくれ』なんて言えなかった」
さらに「救命医療界のドン」には裏の顔がある。
「身内は安倍晋三チルドレンの閣僚経験者、安倍派の裏金議員でした。裏金議員の当選以降、兵庫県では医療特区構想が浮上した。理化学研究所を舞台にしたSTAP細胞不正事件、神戸国際フロンティアメディカルセンターと神戸徳洲会病院の連続死亡事故、医療器具の使い回しに赤穂市民病院の一件…と、医療がらみの不祥事が相次ぎました。これらの問題を内部告発しようとした関係者のもとには『夜道に気を付けろ』という主旨の匿名メールが送りつけらています」(前出・大病院勤務医師)
不穏なメールはこれらの不祥事を取材中だった筆者にも、他の報道機関の記者にも送られてきた。他の不祥事に漏れず、赤穂市民病院で8人の患者の人生と足を奪った40代男性医師は書類送検で済み、厚労省は5年前の事故について、医業停止処分も医師免許剥奪の行政処分も下さず、今に至っている。
自民党議員と厚生官僚、悪徳医者がデタラメの限りを尽くす暗黒の時代に、終わりはくるのか。10月の衆院選挙で自民党は大敗し、「救命医療界のドン」の身内たる元閣僚議員も落選した。政治力を失った40代ヤブ医者とその上司への審判が下されるのは、これからが本番だ。
(那須優子/医療ジャーナリスト)