マイナンバーカードと健康保険証が一体化した「マイナ保険証」の本格運用が、12月2日から始まった。今後はアナログ健康保険証は発行されなくなり、手持ちの健康保険証は有効期限(最長2025年12月1日)まで利用できるが、それ以降はマイナ保険証か資格確認書が、受診時などに必要となる。
新聞業界ではマイナ保険証に懐疑的な論調が目立つが、実際に病院を受診する際、マイナ保険証と資格確認書では何が違うのか。
最も大きいのは、マイナ保険証を使うと救急搬送や緊急入院、精密検査を受けた際に「高額な検査代」「高額な入院費」を払わなくて済むことだ。
病院の受付で、マイナ保険証で本人確認後、端末に「高額療養費制度を利用」という表示が出てくる。これをクリックすると1カ月間、年収に応じて決められた「自己負担限度額」以上の治療費、検査代、入院代は請求されずに済む。
入院費用は1日あたり、平均2万円。2泊3日なら3日分の入院費6万円に検査代、処置代、手術代が上乗せされ、生命保険各社の試算では、入院1回あたり約20万円の入院費がかかるとされる。
受診時にマイナ保険証の「高額療養費制度を利用」をクリックしておけば、年金生活者で非課税世帯の高齢者なら、手術や精密検査を受けても、支払う医療費の上限は3万5400円(病院食やオムツや寝具レンタル料などは別会計)。月収27万円以下の人の医療費上限は5万7600円(同)となる。
一方、入院時や精密検査の際に紙の保険証、もしくは資格確認証を提示すると、退院時には入院や検査にかかった全額費用を患者本人が一度、立て替え払いしなくてはならなくなる。高額療養費の事務手続きは自分でしなくてはならず、一時立て替えた入院費の差額が戻ってくるのは、およそ3カ月後。預金残高が心もとない人や、医療保険に入れない人、独居老人ほどマイナ保険証を使った方がいい。
マイナ保険証に顔認証を登録しておけば、万が一、外出先で自分が倒れた際にも資格確認が可能となる。救急隊員の端末でマイナ保険証から情報を読み取り、内服薬や治療歴を確認して、搬送先の病院と情報共有できる。
さらに新聞がゴリ押しする「資格確認書」には「落とし穴」がある。顔写真が添付されていない資格確認書の他に、本人確認書類を病院で求められることがあるからだ。運転免許証や学生証、勤務先の身分証明書、あるいは在日外国人のように在留カードを持っていればいいが、日本の高齢者はこれらを持ち併せていないケースが多々ある。公的な顔写真入り身分証がないからといって健康保険診療を断られることはないが、新聞各社はマイナ保険証を持っていないと病院受付で肩身の狭い思いをする「不都合な事実」には触れていない。
マイナ保険証を使うか使わないかは本人の自由だが、まだ作っていない人は年末年始を控えた今のうちに、顔認証手続きまで済ませておくことをお勧めしたい。
(那須優子/医療ジャーナリスト)