我々はいったい、何を見せられているのだろうか…。NHK連続テレビ小説「おむすび」の視聴者の心境は、そんな感じだと思うのだ。
それは12月11日の第53回。これまで視聴者の間で「謎」とされていた、主人公・米田結(橋本環奈)の父・聖人(北村有起哉)と母・愛子(麻生久美子)の馴れ初めの描写があった。
栄養士学校2年目の夏になってもまだ就職先が決まらない結。恋人の四ツ木翔也(佐野勇斗)からプロポーズされたことを学校の仲間に告白すると、カスミン(平祐奈)は「めっちゃええやん。結ちゃん、就活うまくいってへんのやし」と、笑顔で毒のあるひと言(本人は自覚なし)。
結婚を逃げ道にしてるみたいで「それは嫌」という結だが、彼氏を支えることが結の目標であることを考えれば、確かにカスミンの意見は的を射ている。
帰宅すると聖人は「どこでもいいから就職したら?」と薦める。四ツ木のプロポーズを伝え聞いて、気が気ではないのだ。「まだ19歳だぞ」と語る父に、母は「私が結婚したの18歳だけどね」と言い返すと、聖人は反論できなくなる。
ここで愛子の口から、神戸で床屋の修行をしていた聖人と、名古屋のスケバン女子高生だった自分がいかにして出会い、結婚に至ったのかが語られたのだ。
「家出してきた私と、神戸でたまたま出会って、この人…」
ここで回想シーンが始まる。アパートの和室で、70年代フォーク青年風の長髪の聖人がフォークギターを抱え、「愛子さん、僕の髪が君と同じ長さになったら、結婚しよう」と、ソバージュヘアの愛子に向かって、吉田拓郎のヒット曲「結婚しようよ」の歌詞モロパクリのセリフでプロポーズ。結は髪の長い父を「想像できひん」と爆笑するのだった。ドラマウォッチャーが言う。
「年齢も住んでいる地域も違う2人がなぜ知り合えたのか、不思議に思っていたのですが、まさか家出してたまたま知り合った男と親しくなっていたとは。当時の愛子はまだ高校生ですからね。今なら誘拐の疑いがかけられても仕方のない、かなり大胆な行動です」
では視聴者はどう思ったかといえば、
「コント? どう受け止めればいいのか」
「プロポーズの回想は、せめて若い役者を立てればよかったのに。北村さんと麻生さんが演じるからコントになっちゃうんだよ」
ドラマウォッチャーが続ける。
「結にとっては自分のルーツを探るという意味では、阪神・淡路大震災と同様の重要な出来事。軽く笑いで済ませてしまっていいのでしょうか。若すぎる愛子の結婚・出産には周囲の反対もあったはずで、2人がどうやって乗り切ったのか、丁寧に描いてもよかった」
あらゆることが過程を省略して進んでいく。このテキトーなムードは致し方のないところなのだろうか。
(石見剣)