テリー そうすると今度、欲みたいなのが出てきませんか? 最初は舞台袖で震えてたのが、「あれ、俺にしかない持ち味があるな」とか、自分をある程度客観的に見られるようになりますよね。
小倉 いや、袖で震えてる感じは今も同じです。もちろん、「俺はダメだ。向いてない」なんて声には出さないですけど、今でも袖で(心臓のあたりを押さえながら)「ああ‥‥」っていうのはなってますよ。
テリー そうなんだ(笑)。でも、緊張感もないとね。
小倉 それ、よく言うじゃないですか。でも、緊張せずにいいパフォーマンスが出せるなら、それが一番いいんじゃないかなと思うんですよ。これね、聞いた話なんですけど、僕、益田喜頓さんが大好きだったんですよ。
テリー それ、すごいですね。すごく飄々とした人で、あんまり子供は好きにならないですよ。
小倉 でも、僕は大好きだったんです。そんな話をどこで誰にしたのか忘れましたけど、その方が益田喜頓さんが舞台に出る時の話をしてくれたんです。楽屋でフッと力が抜けた感じでいらっしゃるんですって。で、「益田さんお願いします」って言われると、「はい」って立ち上がって歩いて行って、そのまま舞台に出て、お芝居をして帰って来るんですけど、その間、どこにも力が入ってないっていう。
テリー もう達人の域だ。
小倉 だから、そういうふうになれたらいいなと。僕なんか、ここに来てテリーさんとお話するだけで、朝からドキドキしてましたから。
テリー いやいや。
小倉 ほんとですよ。だからね、もうちょっと楽に仕事できたらいいなと思ってますけどね。
テリー でも、そういう人って確かにいますよね。ラジオなんかでも普通にしゃべってたと思ったら、「あ、もう本番始まってたんだ」みたいな。
小倉 (同じ所属事務所の)サザンオールスターズの関口(和之)さんがそうなんですよ。2、3度ラジオに出していただいたんですけど、「今日はどうのこうの」ってすごく小さな声で何か言っていて、台本の下読みしてるのかなと思ってずっと見てたら、もう番組が始まってた(笑)。
テリー アハハハ、それは精神力強いですよね(笑)。
小倉 テリーさんはどうですか?
テリー いや、僕はやっぱり「さあ、やってまいりました!」って、1オクターブ声が上がりますから、そういう人はうらやましいですよね。
小倉 ラジオより今は若干トーン低いですよね。
テリー でもね、もうこの年になったんで、いろいろ平気になってきましたね。気負いがなくなってきた。
小倉 よく言う「もう失うものがない」みたいな?
テリー ないですね。
小倉 なるほど。「失いたくない」とか思うから緊張するんですかね。
テリー 「もう番組がなくなってもいいか」っていうのは、どこかにあるかもしれないですね。「自分の保身より、聴いてる人の立場になったほうがいいかな」みたいな。
小倉 わぁ、これはすごいことを言われた気がしますね。自分がどうとかじゃなくて、聴いてる人、見てる人の立場で考える。
テリー いや、別にすごいことは言ってないですけど。
小倉 そういえば三宅さんもお芝居を作っていて、ほぼ自分の中で出来上がった時に、お客さんのことを考えるって言ってました。「ここでお客さんは笑う。次はここで笑う。そうすると、この間が少しあるからお客さんは飽きるかもしれない。ここで何かしないといけないな」っていうようなことを、お客さん目線でずっと考えるらしいです。やっぱり自分のことばっかり考えちゃダメなんでしょうね。
ゲスト:小倉久寛(おぐら・ひさひろ)1954年、三重県生まれ。1979年、「劇団スーパー・エキセントリック・シアター」の旗揚げメンバーに。80年代中盤からバラエティー番組を中心にテレビ出演が増え、1986年にはNHK「ヤングスタジオ101」の司会、「笑っていいとも!」(フジテレビ系)にレギュラー出演した。1989年、「夢見通りの人々」で映画初主演。その他の主な出演は、映画「空母いぶき」「Fukushima 50」、ドラマ「おかしな刑事シリーズ」(TBS系)、NHK大河ドラマ「翔ぶが如く」「功名が辻」「青天を衝け」、NHK朝の連続テレビ小説「ほんまもん」「らんまん」など。2月21日(金)〜3月2日(日)、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて「小倉久寛 生誕70年記念 コントライブ ザ・タイトルマッチ3 お楽しみはこれからだ 〜You ain’t heard nothin’yet〜」公演。