エースの没落である。あれから数日が経っても、ショッキングな光景は脳裏に焼き付いている。
巨人の開幕投手、戸郷翔征が4月11日の広島戦で晒した投球は、目を覆わんばかりの内容だった。自己ワースト10失点の屈辱を味わい、わずか3回1/3でノックアウトされた。4回に6安打を浴び、2四球で一挙7失点、今年は開幕から5回4失点、3回3失点とサッパリで、3試合で2敗、防御率11.12の惨状だ。2軍降格が決まったのは当然のことだろう。
阿部慎之助監督は下を向き、女房役の甲斐拓也や杉内俊哉投手コーチも困り果てる様子が中継に映し出された。試合がぶっ壊した戸郷に阿部監督は、
「責任を果たしてほしかった」
サンドバッグ状態になっても「晒し投げ」で、106球まで続投を命じた。ボッコボコにされ、ようやく降板となった戸郷はショックのあまり、ベンチに戻ってからも視線が宙をさまよい、放心状態。
「いい思考にならなかった。何が悪いか分からない」
そう話した戸郷は登板前に悩んで、田中将大から直球の握りを変えるようにアドバイスをもらっていたが、それも劇薬とはならなかった。
ストレートの最速は149キロに落ちていた。懸念されるのは、スイーパーと呼ばれるスライダーやカットボールの投げすぎだ。球団OBが言う。
「WBCでダルビッシュ有から教わった『ダルスラ』を投げすぎて、腕を横に振る形になってしまいました。ひねりが入ったような腕の振りになったことで、ストレートがスライダー回転して、球速が出ていない。イチから元の形に戻さないといけません」
数年後のメジャー挑戦を目指している戸郷だが、それどころではなくなってきた。
(佐藤実)