鬼木達新監督を迎えた新生鹿島アントラーズは、痛い黒星スタートとなった。
アウェイの湘南ベルマーレ戦に挑んだ鹿島は、立ち上がりこそ主導権を握ったものの、徐々に湘南にペースを奪われ、後半19分に福田翔生のゴールで先制される。そしてそのまま逃げ切られてしまった。
湘南は主力選手が国内外に移籍してしまい、なかなか安定した戦いができないシーズンが多かった。今季は田中聡がサンフレッチェ広島に移籍したが、他の主力選手が残留。山口智が5シーズン目を迎え、チームの完成度は高い。残留争いの常連だったが、今季は台風の目になってもおかしくないほどの好スタートを切った。
一方の鹿島は、まだまだ立て直しに時間がかかりそうだ。試合開始早々はボールが回っていた。しかし湘南が慣れてきてからは、完全に後手に回る。90分間で決定機を作れず、チャンスらしいチャンスはコーナーキックからのみだった。
鬼木監督が目指しているサッカーはどういうものか。自分たちで主導権を握り、技術で相手を圧倒してしまう魅力的なサッカーだ。
大事なことは、ボールを奪い切る力。つまり、ボール回収率である。主導権を握っていても、ボールを奪われカウンターを食らっては意味がない。だからボールを奪われた瞬間に切り替えて、奪いに行く。セカンドボール、クリアボールも回収できれば敵陣でプレーする時間が増え、攻められる時間が減るということだ。
攻撃についても、相手の守備を崩すことにこだわる。強かった川崎フロンターレは、ポケットに入り込んいくプレーが多かった。それもサイドバックや2列目、3列目の選手が思い切って攻め上がっていく。それだけボールを持っている選手を追い越して行くプレーが多いということになる。パスの出し手と受け手だけの関係ではなく3人目、4人目の動きがあるから相手を崩せるのだ。
攻撃に人数をかけるだけに守備のリスクは大きくなるが、前述したように回収率を高くすれば問題ないし、攻め切ってしまえば戻る時間ができる。そんなサッカーを目指しているはずだ。
ただこの試合、そんなサッカーにはほど遠く、相手の守備を崩す形もなかった。最後は5バックでスペースを消していた湘南を相手に、足元のパスばかりで自滅した形だった。
それでも鬼木監督にとっては、この結果は想定内だったのかもしれない。それが証拠に後半28分、1点のビハインドであるにもかかわらず、自慢のツートップの鈴木優磨、レオ・セアラを代えている。目の前の勝ち点1よりも、いろんな選手を試したいという思いの方が強かったのだろう。それだけチームは発展途上にあるということだ。
鹿島はレベルの高いサッカーを目指している。それに対応できる選手もいる。ただ、時間はかかる。次節の相手は東京ヴェルディ。湘南同様にチームの完成度は高いだけに、鹿島にとって厳しい戦いになる。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップ・アジア予選、アジアカップなど、数多くの大会を取材してきた。