川崎フロンターレの鬼木達監督が、今季限りで退任する。2017年に監督に就任すると、いきなり川崎をJ1初優勝に導き、2018年に連覇を達成。2020年と2021年にもJ1連覇し、4度のリーグ優勝を実現させた。
さらには、2019年にルヴァン杯制覇。2020年、2023年には天皇杯優勝と、8シーズンで7つのタイトルを獲得した名将である。
それまでの川崎は、国内三大タイトルで8度の2位を経験し、シルバーコレクターと言われた。中村憲剛でさえ「自分はこのまま優勝を経験しないで引退するのか」と思ったほどだ。
それが鬼木監督就任1年目で初タイトルを獲得しただけでなく、その後もチームを常勝軍団に成長させ「黄金時代」を築いた。特に2020年、2021年の連覇は記録ずくめだった。最多得点、最多勝ち点、最多得失点差、連勝記録、無敗記録など、次から次へとリーグ記録を塗り替えた。
鬼木監督は川崎をどう変えたのか。前任の風間八宏監督はポゼッションサッカーで、超攻撃的な戦いを川崎に植え付けた。しかも風間監督の考えは「ボールを持っていれば、守備をする時間が少なくて済む」として、守備の練習に時間を割かなかった。だから試合によっては、点の取り合いになることがあった。
鬼木監督はその攻撃的なサッカーに、守備のエッセンスを加えた。それは後ろで守るということではなく、前線で攻めている時にボールを奪われたら、攻撃から守備への切り替えを早くし、すぐにボールを奪い返して再び攻撃に移るというものだ。最終ラインの守備も待つのではなく、自らアタックに行くことで、ボールを奪えばそのまま攻撃に繋げる守備を徹底した。守るというよりも、攻撃的な守備を植え付けた。それがハマッた時は、ほとんど相手陣内でプレーし、ハーフコートのサッカーのように見えた。そのくらいの強さを見せつけていた。
そんな中、現日本代表の守田英正(スポルティングCP)、三笘薫(ブライトン)、田中碧(リーズ・ユナイテッド)、旗手怜央(セルティック))、谷口彰悟(シント=トロイデン)など、主力選手の海外移籍が相次いだ。さらにチームの得点源だったレアンドロ・ダミアンは、昨季で退団。守備の要だったセンターバックのジェジエウは復帰とケガを繰り返し、定着できなくなった。
今季は黄金時代を知る両サイドバックも移籍。補強した選手がなかなかフィットせず、4人のブラジル人を追加したが、大きな戦力になっていない。鬼木監督は先発メンバーを入れ替えたり、システムを変えるなど、やり繰りしてきたが、強い川崎を復活させることはできなかった。
退団が決まったが、これだけの結果を残した監督だ。すでに、現役時代に6シーズンをプレーした鹿島アントラーズからオファーがきているという。そのほか、2028年ロサンゼルス五輪を目指す次期五輪代表監督候補にも、名前が挙がっている。
実績を考えれば五輪代表監督よりも、鹿島を復活させてからA代表監督、という道の方がしっくりくる。鬼木監督がどういう選択をするのか、目が離せない。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップ・アジア予選、アジアカップなど、数多くの大会を取材してきた。