力の差を見せつけて、ヴィッセル神戸がまた一歩優勝に近づいた。
神戸はホーム扱いの国立競技場で鹿島アントラーズと対戦し、3-1で快勝した。出場停止の初瀬亮の代わりに本田勇喜を左サイドバックで起用した。そのほかにも前線の左右を入れ替えた。本来右の武藤嘉紀を左に置き、佐々木大樹を右のウイングに置いた。
この佐々木の起用は、鹿島の左サイドバック安西幸輝の攻撃力のケアと同時に、180㎝の佐々木と172㎝の安西とでミスマッチを作ることだった。この対策はC大阪戦でも、右サイドバック毎熊晟矢の攻撃力をケアするために佐々木を左ウイングに置いて勝っている。
現に鹿島戦でも前半の2点、佐々木、井出遥也のヘディングシュートに競り負けたのは安西だった。自分たちのサッカーをやり通す。それだけではなく、対戦相手のストロングポイントを抑えて自分たちの良さを出している。選手起用法でも吉田孝行監督の采配が冴えている証拠だ。残り4試合、大きなアクシデントや相手を舐めたような試合をしない限り、初優勝に突っ走るだろう。
神戸から見れば鹿島戦は残り5試合のうちの1試合に過ぎない。でも鹿島からすれば、負けたら7シーズン無冠になる大事な首位・神戸との大一番。
この試合に向けて約3週間の準備期間があった。ところがフタを開けてみれば4-2-3-1で鈴木優磨のワントップ。垣田裕暉とのツートップにして結果が出るようになったのではないか。試合は神戸のプレスに苦戦し、足元のパスばかりで縦にボールが入らず、鈴木は前線で孤立。シュートも打てない状況だった。
それでも流れを変えられず、ベンチからも有効な指示がない。この試合が、もう負けられない大一番なら、前半からシステム変更、ポジション変更、メンバー交代など思い切った采配が必要だったのではないか。
岩政大樹監督は「自陣の最後の3分の1に入らせないことが前半の目的だった」と言っていたが、相手の最後の3分の1に入れなかったのは鹿島の方だ。
後半に3人交代し垣田を投入して、何とか盛り返したが、ビッグチャンスは神戸の方が多かった。これが優勝を争って首位に立っているチームと、自分たちのサッカースタイルが見えてこないチームのレベルの差なのか。
下位のチームに連勝して、大事な上位チームとの試合で勝ち切れない。神戸、横浜F・マリノスと上位2チームに勝てば何かが起こると期待されていたが、結局2連敗で自滅。これが今の鹿島の実力だろう。
岩政監督は負けた試合の後に「僕の責任」とよく言うが、簡単に「責任」という言葉を使うべきではない。じゃあ、あなたはどういう責任をとるんですかということになる。神戸戦後のインタビューでも、
「優勝がなくなってしまったので、ACL(出場権獲得)を目標に切り替えて、残り4試合全部勝ちたいと思います」
と答えていたが、それも達成できなかったら、それこそ責任問題に発展しかねない。残り4試合はACL出場権よりも、勝ちを意識しながら、鹿島が目指すスタイルを突き詰めた方がいいと思うのだが。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップアジア予選、アジアカップなど数多くの大会を取材してきた。