認知症で入院していた89歳の医師にニセの死亡診断書を書かせて、殺人事件を葬り去る――。みちのく記念病院(青森県八戸市)で発覚した「患者間殺人隠蔽事件」は、いわゆる「長期療養型病院」に潜む闇の深さを改めて浮き彫りにした。
この記事の前編(2月18日6:00公開)で指摘したように、認知症や精神障害や寝たきりの人間を身内に抱える家族にとって、一般の病院では受け入れてくれない「ワケあり患者」を収容してくれる長期療養型病院は多くの場合、「現代の姥捨て山」として機能している。
この手の長期療養型病院の中には、傘下の介護福祉施設などと連携して「生活保護を受けている者」「低所得にもかかわらず、生活保護を受けていない者」「経済的な理由で公的医療保険に加入していない者」のほか、「多重債務による生活困窮者」「ホームレス」「配偶者からの暴力被害を受けている者」「人身売買被害者」など、寄る辺のない社会的弱者を積極的に受け入れているケースは少なくない。
このような社会的弱者の入院や入所に際しては多くの場合、病院側や施設側が生活保護の申請をはじめ、無料低額診療事業や無料低額介護老人保健施設利用事業などの制度を駆使して、入院や入所に必要な費用の免除手続きを代行している。
しかし、である。ここにも知られざる闇が横たわっているのだ。筆者がかつて実際に目撃、取材したケースを紹介しよう。
関東地方の山間部に病棟を構えていたある長期療養型病院では、入院中のアルコール依存症患者を「酒浸り」にしていた。朝食が終わるやいなや、患者たちを自由に外出させ、患者らが近所の酒屋で好きなだけ酒を購入すること、そして店先などで夕方まで酒盛りを続けることを、見て見ぬフリをして容認していたのである。
寄る辺のないアルコール依存症患者の入院費や治療費はほぼ全額、国からの補助金によって賄われていた。病院側はこの制度を悪用し、患者を酒浸りにして死ぬまで収容することで、ボロ儲けを繰り返していたのだ。まさに「悪徳」の極みである。
その後、積年の悪事は世に露見し、悪徳病院は閉鎖に追い込まれた。今回、表沙汰になった「みちのく記念病院事件」は、氷山の一角にすぎないのである。
(石森巌)