石破茂内閣が昨年末の自民党と公明党、国民民主党との3党幹事長合意をひっくり返し、年収200万円以上の納税者に2段階で大増税することが明らかになった。すなわち年収が200万円以下の世帯に限り、税制控除を150万円程度に引き上げる方向で調整に入ったのだ。
「103万円の壁」問題を整理してみよう。主婦や学生のパートやアルバイトの収入が年間103万円を超えると世帯主の扶養から外れ、主婦や学生本人に所得税がかかるだけでなく、家族を扶養する世帯主にも所得税と住民税が増税される。
この103万円という所得税の控除額は、約30年前の最低賃金611円(時給)に基づく「最低年収額」で、これを今の最低賃金1054円で換算すると、最低年収額は178万円。現在の最低年収額に準じて昨年、3党の幹事長が年収178万円まで所得税控除を引き上げることで合意した。
さらに昨年3月、岸田文雄前総理は大手企業の春闘交渉後に「最低賃金を1500円まで引き上げる」と言及。岸田発言に基づく最低年収額は210万円になる。本来なら国民民主党の178万円に対し、中小企業にまで時給1500円への引き上げを迫った自民党は、所得税控除額を年収210万円に引き上げなければ辻褄が合わない。しかも昨年秋の衆議院選挙前、石破総理は所信表明演説で岸田発言を踏襲し「2020年代に全国平均1500円という高い目標に向かってたゆまぬ努力を続けます」と国民に約束していた。
ところが衆院選が終わるや、所得税控除額を引き上げるのは年収200万円以下のみ。あとは2段階で大増税すると言い出したのだから、石破総理は国民を騙したことになる。国民民主党の玉木雄一郎代表(役職停止中)は自身のXで、
〈「103万円の壁」の引き上げ、2ヶ月ぶりの3党協議再開。まだ、何も始まっていません。とにかく、3党幹事長間の約束は守ってほしい〉
と不快感をあらわにしている。
年収200万円という不自然な設定は、高齢有権者と生活保護受給者に忖度したもの。現行制度では年収103万円を超える貧乏学生にすら増税しているのに、65歳以上の年金生活者には「年金控除額110万円」という優遇制度があり、基礎控除と合わせて年金支給額が年158万円以下だと所得税免除、年155万円以下だと住民税免除の非課税世帯になる。
世帯年収が156万円を下回った場合、生活保護が受給されるが、都内23区の一般的な生活保護の支給額は年190万円。つまり自民党は生活保護以上の給料をもらっている全てのサラリーマンに大増税するというのだ。
年収200万円を1円でも超えれば所得税と住民税、健康保険料と年金保険料の計80万円以上を徴収され、非課税世帯や生活保護受給者より過酷な餓死寸前の生活を強いられることになる。まさに働いたら負け、だ。
働く者をとことん追い詰め、苦しめることが、石破内閣と自公政権が目指す「楽しい日本」の姿なのだろうか。
(那須優子)