まさに「異次元」だった。3月31日、岸田政権は少子化対策の叩き台を発表したが、その内容を精査すると「少子化を口実にした大増税の始まり」だったのだ。小倉将信こども政策担当相が会見で公表した「叩き台」の主な内容は、
【1】児童手当の所得制限撤廃
【2】児童手当の支給は高校卒業まで延長
【3】出産費用の健康保険制度適用を検討
【4】産後の一定期間内、男女とも育児休業給付を「手取り収入」の10割相当に引き上げ
【5】給付型奨学金の導入、ただし多子世帯や理工農系に限る
3月31日付の毎日新聞ニュースサイトによれば、これらの少子化対策の財源は「公的医療保険の月額保険料に上乗せ」するという。フザけるな、と言うしかない。
中小企業で働く現役世代と、その家族が加入している社会保険「協会けんぽ」の統計によると、保険料率は「協会けんぽ」が10%なのに対し、国家公務員が加入する「国家公務員共済組合」は8.2%。財務官僚や厚生官僚は民間人に比べ、支払っている健康保険料は、安く設定されている。実にセコイ。
しかもサラリーマンが毎月支払う健康保険料の4割は、我々の診療費用に充てられているわけではない。健康保険加入者とは全く縁も関係もない「アカの他人の高齢者医療」に使われているのだ。協会けんぽの統計によれば、われわれ現役世代が肩代わりさせられている老人医療費の負担額は「被保険者一人あたり、平均17万3000円(年額)」にのぼる。
ちなみに「少子化対策の目玉」となっている児童手当は、3歳以上から中学生まで一律、月額1万円(第3子以降は1万5000円)。年間わずか12万円だ。
今ですら児童手当として受け取る金額よりも、給料から天引きされる、老人医療の肩代わり金が多いというのに、健康保険料率を引き上げるという。これは実質的な大増税だ。
健康保険料や年金などの社会保険料負担は今のところ、健康保険料は10%前後、年金は18.3%と決まっているが、この料率を20%に引き上げられてしまえば、消費税率アップどころではない大増税が現役世代を直撃する。日本は福祉政策に力を入れる北欧よりも現役世代の税負担が大きい「老人社会主義国家」になってしまう。
あれだけ岸田文雄総理が「異次元」と言っていたからには、サラリーマンが理不尽にぼったくられている老人医療の肩代わりをやめる、と言い出すのかと期待していた。健康保険料の年額17万3000円がなくなれば、児童手当12万円と合わせて、約30万円の手取りが増えることになり、育児世帯のみならず20代、30代の未婚世帯の生活も楽になるし、将来の結婚資金や子供の教育資金を貯めることもできた。
ところがフタを開けてみれば「少子化対策」は単なる口実で、膨張し続ける老人医療費をサラリーマンに肩代わりさせる「大増税」だった。
国会議員と財務官僚、厚労官僚やそのOBはまず、民間人並みの健康保険料を支払い、老人医療バラマキをやめてから「増税」「財源」を口にすべきだろう。
(那須優子/医療ジャーナリスト、フィナンシャルプランナー)